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患者さんとの思い出話
ほんとに勝手なこと書いてます。 
ここに出てくる患者さんの年齢、性別、経過などは
プライバシー保護のため多少変更しております。

「幻覚妄想の辛さを教えてくれた少女」
 
 
皆さんは「統合失調症」という病気についてどんな印象を持っていますか?

昔は「精神分裂病」という名称で呼ばれており、症状としては幻覚や妄想、思考がまとまらなかったり、引き篭もったりといった症状を認め、時に自殺や犯罪なども起こすことがあることから、どうしても怖いという印象が強いみたいですね。
 
 でも実際、患者さんにしてみれば非常に辛い病気なんですよ。治療も何年もかかるので、多くの方が病気で人生が変わるといっても過言ではありません。今回はこの病気の辛さを、教えてくれた女の子の話です。
 

 その子は、まだ12歳の可愛い女の子で、10歳くらいの時に幻聴と注察妄想(誰かに見られているという妄想です)で発症しました。

最初のうちは抗精神病薬の内服で症状は落ち着いていたのですが、2年後に副作用が出現したんです。通常は10年以上服用している人に多い、
口唇ジスキネジアという副作用で、症状としては無意識に舌が突出したり、口をもごもごと動かしたりするのです。
 

副作用の中では一番難治性であり、長期に抗精神病薬でドーパミン受容体を遮断することから、受容体の感受性が亢進して起こるといわれております。(簡単に言えば受容体の数が増えたり敏感になることで、ドーパミンの枯渇と脳が認識してしまうのです)

通常の副作用とは逆に、
抗精神病薬を減量すると悪化し、
増量すると一時的に改善するのですが、
時間がたつとまた起こるという悪循環をきたします。
ですから根治には時間をかけて薬を徐々に減らすしかないんですよ。
 

彼女も、そういう理由から徐々に薬を減らしたことで精神症状が悪化し、入院治療となりました。活発な幻覚妄想を認めており、副作用もひどくなっていたのです。

口唇ジスキネジアは本人には苦痛が無いのですが、女の子の将来を考えるとずっと舌を出して口を動かしているというのは外見的に問題あります。母親や上司と相談し可哀相ですがあまり強い薬は使用せず、ゆっくり時間をかけて内服の変更と減量することにしました。
 
私が初めて彼女と会った時には、舌を突出し、
震えながら真っ青な顔をしておりました。
ベッドでずっと布団をかぶっており、

「自分の悪口が聞こえる、怖い人がこの病院に来ている」と辛そうに・・・、

トイレの時以外は怖くて布団から
出られないんですよ。

12歳の女の子が一日中布団に包まって
震えているという姿はなんとも悲惨であり、
幻聴や妄想というのはこんなにも
辛いものなのかと痛感しました
 


 私も医師になったばかりで、何とか良くしてあげたい、助けてあげたいと意気込んでいたのですが、まだ知識も経験もなく、抗精神病薬はすぐには効きませんので、ただ毎日のようにベッドサイドで彼女の手を握ってあげることしか出来ませんでした。

 どうしても辛くて怖い時には、昼間から睡眠薬を投与して寝かせることにし、それでも色々と勉強をして、上司の先生と相談したのですが一向に症状は良くなりません。現在は副作用が少ない良い薬があるのですが、当時は副作用の強い薬しか無かったんですよね。


 
 私のいた大学病院では、教授、助教授、講師レベルの先生達と病棟医、研修医で毎週ケースカンファレンスというのを開いていました。通常は診断が解らない患者さんの診断について話し合い、途中に患者さんも出席してもらうのですが、無理に上司の先生にお願いして、診断のついている彼女の治療について話し合うことにしたのです。

彼女はトイレに行くのも辛いのに、何人もの先生の前で色々質問や診察されるので、非常に嫌がっておりましたが、皆であなたの病気を良くするための話し合いだからと説明して納得してもらいました。
 
カンファレンスは準備が大変でしたが、付き添いの看護師さんや本人にも何とか頑張ってもらい、無事に終了しました。北里大学の精神神経科は精神神経薬理学の専門で、日本でも有名な先生が何人もおり、そんな教授クラスの先生の意見は非常に参考になりました。
 
 使用する薬を指示通り変更し、1ヵ月後には副作用は消失し、幻覚や妄想も見事に改善したんです。その時は、本当に嬉しくて素直に講師レベルの医師のすごさに感動したものです。

無理にお願いして、苦労して準備した甲斐がありましたよ。彼女は病棟内でも元気に走り回るようになり、いつも僕のことを追いかけてきました。TMレボリューション(アーチスト名です)の大ファンらしく、歌の振り付けを教えてもらったのを憶えています。
 


統合失調症の若年発症は予後があまり良くありません。
ベースに発達障害があることが多く、
その後の人格形成に問題を残すことが多いからです。
 
彼女も12歳という年齢からすると非常に幼く、
難しい話になるとすぐに解らなくなってしまいます。
非常に社交的なので対人関係は問題ないと
思いますが、これから中学、高校に進学して
社会人ということを考えると・・・・

母親と伴に色々な苦労がこれからも
待っているのだと思います。
 
 退院した後は会っていないのですが、今年で彼女も19歳になっているはずなんですよね。元気かな?退院の時には自分のプリクラを貼ったラブレター貰いましたよ。12歳でも立派な女性なんですね。今でもTMレボリューションを聞くと彼女のことを思い出すんです。

 
 


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