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医者の本音

私の自伝みたいなものです。

  4.内科の中の精神科患者
 
 
 医師4年目にして内科の研修医が始まりました。

研修先の病院は、人手不足の上に過疎の土地にあり、3次救急も兼ねている2次救急の市民病院です。前評判では相当な激務で、入院した研修医もいると聞いており、自分の健康管理だけは、しっかりしようと意気込んでいたんです。 まあ、忙しい方がACの私には合ってるんですが・・・
 
 救命救急センターでの研修をした後でしたので、重症な患者さんの緊急対応はある程度解るのですが、緊急性のなさそうな患者さんは(普通の風邪とか腹痛とか)最初のうち対応に困りました。

 患者さんを一度待たせて医学書を調べたり、上の先生に相談してから、また診察するといった感じでした。 不思議なことに机の上で勉強の時は頭に入らないんですけど、目の前に患者さんがいると勉強に身が入り忘れないんです。
 
 入院患者も人手不足のためか、重症な患者で手がかかりそうな患者さんや自分が最初に診た救急患者は皆、受け持たせされました。

正直、患者さんの多さに理不尽さを感じたこともあるんですけど、
当時の上司からは、
前は精神科医なんだから、
一人でも多くの内科の患者を診ろ

と厳しく言われていたんです。
 
 おかげで、本当に沢山の患者さんを受け持たせていただき、2年間の研修で延べ230人くらいになりました。これは大学病院の内科研修の倍以上になるんではないでしょうか。大変でしたが、非常に勉強になりました。
 
 出来るだけ朝のうちに入院患者を診て、昼間は救急車に追われ、夕方当直の時間になってからまた入院患者を診る、時間があれば勉強、といった感じの生活でした。
 
 

 当時は今と違い当直明けも通常業務だったので、翌日本当に辛かったです。当直は内科医と外科医の二人体制なのですが、何故か私の当直の時には荒れるんです。救急車はひっきりなしだし、病棟でも急変ばかり、風邪の患者を待たせて心臓マッサージをしていたり、酷い時には一晩で3人挿管したこともありました。

 通勤時間を少しでも睡眠に当てるため、夜呼ばれそうな時には、着替えや泊まる用意をしておき、よく病棟に泊まりましたよ。当直室はタオルや洗面道具などの私物で溢れかえっていました。


 今思えば、よくあんな生活出来たなと思いますが、元々の共依存的な思考から自己破滅願望も手伝い、何とか乗り切れたんでしょう。おかげで肉体的にも精神的にも非常に強くなりましたね。

 夜も病院に泊って、土日も必ず一度は受け持ち患者さんの顔を見に行きました。というか診ないと不安でしょうがないんです。

 よく患者さんには「日曜日はこんな年寄りに会いに来る暇があったらデートしなさい」とか上司の先生にも「たまには家に帰れ、ガス抜きして来い」などと言われておりました。

 たまに友人の付き合いで合コンとかに行っても、患者のことしか頭になく「どうしたらあの患者は良くなるのか?」ということばかり考えていたんです。実際途中で病院に呼ばれてしまうことも多かったです。

今思えば、

患者さんに必要とされているから
自分は存在価値がある。
患者さんから必要とされなくなる
ことが本当に怖かった・・・

退院の時や最期の時に言われる
「先生、ありがとう」
その言葉だけが、私の心の支えだったんですね。
 


 内科の研修が始まり、一番最初に思ったのは、患者さんとの疎通が非常に取りやすいということです。薬は飲んでくれるのが当たり前だし、会いに行くと笑顔で迎えてくれたりと非常にやりやすかったですね。今まで自分が、いかに難しい患者さんを扱ってきたのかを痛感しましたよ。
 
 また、初診外来や二次救急の当直をしていると、精神的に問題のある患者さんが多いのにもびっくりしました。これは夜間、かかりつけの精神病院が、診療していないせいもあるのですが、動悸がする、何か落ち着かない、息が苦しいなどさまざまな主訴で来院し、一通りの診察や検査をしてもやっぱり異常ないのですが、説明しても中々納得せず、精神科受診を勧めると怒るんですよね。
 
 その患者さんの価値観では非常に辛いのは解るし、実際はゆっくり話を聞いてあげないといけないのですが、こちらも忙しい状況でそんな患者に付き合っていられないという、内科の先生の気持ちも良く解りました。
 
 思い出に残っているのは、アルコール依存症と、肝硬変を患っている患者さんでした。何度説得しても飲酒を止めず、吐血をして緊急入院。一生懸命治療して退院しても、また飲んで吐血して一ヶ月で帰ってくるんですよ。

 精神科受診を勧めても本人は拒否するし、お酒をやめる気はさらさら無いんですよね。内科の先生にとって、こんなに空しい事はないでしょう。患者さんに叱咤したくなるのも良く解りますよね。
 
 以上のように精神科にいた頃は、何故内科の先生はきちんと診てくれないのかと思っておりましたが、自分が内科医になって良く解りました。もし最初に内科医として研修していたら同じような対応を取っていたでしょうし、精神科の患者さんを受け入れるまで、かなり苦労したのではないでしょうか。先に精神科を学んでいてホントに良かったと思いましたよ。
 
 この激務の内科研修のおかげで、医師として本当に力がついたと思います。今思えば何であんなに、無理に仕事ばかりしていて、体壊さなかったのかが不思議なくらいです。

あの時の辛い経験があるからこそ、
今の自分がいる訳で、目指している
「心も体も診れる医師」
に近づいたのだと思います。
まだまだ勉強ですけどね。

そして教育熱心な厳しい上司の先生に出会え、
沢山の患者さんを受け持たせてくれたこと・・・
今となっては感謝ですね・・・


研修中の入院サマリーは今でも私の宝物です
 




当時の患者さんとの思い出話
「医療とは患者さんと向き合うこと」
         
 「究極の決断、延命治療とは」



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