仁和医院
千葉県市川市本行徳11−8 047(358)7321 |
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この記事は専門的用語が多いため、 先に発達障害とは? 大人の発達障害の記事を読むことをお勧めします。 はじめに・・ 私がホームページに、大人の発達障害の記事を、初めて書いてもう18年、何度も書き直しをしておりますが、それを読んで、大勢の発達障害の患者さんが当院に来院し、非常に沢山のケースを、診させていただきました。今はメンタルで診ている患者さんの、9割以上が発達障害、という状況になっております。多くの患者さんから、自分の親も診て欲しい、子供も診て欲しいと、下は6歳から、上は80歳まで、色々なケースを経験させていただき、私も勉強になりました。 そういった中で、同じ就労能力(IQ)でも社会適応出来ていないケースと、出来ているケースの何が違うのか?、ということを、ずっと考えておりましたが、その理由の一つに、小児期に診断されていて、療育に乗っているケースの方が、大人になって診断されたケースと比べ、圧倒的に社会に適応しているという事実に気が付きました。 小児期に診断されたということは、早い時期に幼稚園や学校で不適応を起こしている訳ですから、言語の遅れのある自閉症や、多動衝動性の目立つADHD、知的障害を併発しているなど、発達障害の中でも重度な子供たちが多いはずです。逆に言語の遅れのないアスペルガーや、多動の目立たないADHDなど比較的症状が軽い方は、小児精神科でもグレーゾーンと言われたり、問題ないと見逃され、放置されることが多く、社会人になってから、やっと診断がつくケースが多いです。 普通に考えれば、重症で知的レベルが低い子供たちの方が、就労の幅が狭くなり、大人になってからも不適応を起こし易いと思うのですが、実際は、幼少期に診断をされ、支援級や療育に繋がり、病院でカウンセリングや薬物療法を受けていた患者さんの方が、成人で診断される人よりも圧倒的に社会的予後は良いんです。 小児期は脳内のシナプスネットワークが未熟ですので、早い時期に見つけ、療育やカウンセリング、コグトレや薬物療法などで、感情のコントロールの方法、嫌いな人との付き合い方、言語の理解、知覚統合や作動記憶の強化が出来れば、シナプスの発達方向が変わり、将来の社会適応力が上がる。 それが発達障害の、唯一の根本的な治療ではないのか? そういう訳で、今回は子供の発達障害の話です。因みに私は児童精神科で、働いたことがありませんので、専門的なことは解りません。あくまで私見ですが、発達障害の子供の育児方法というのは、発達のあるなしに関わらず、全ての子供の育児にも有用であると考えております。精神科医であると同時に一人の父親の視点でも、書いていこうと思います。 1.診断と病院受診 発達障害の原因は遺伝であるゆえ、親が発達障害で子供も発達障害というのが一般的であるが、遺伝率は100%ではない。親が診断されれば、子供も可能性が高いが、中には、両親に全くその傾向がないケースも見受けられる。以下は、私が外来で遭遇した患者さんの親から、聴収した小児期の特徴である。 出生〜乳児期:笑いかけても視線を合わせない、授乳困難、抱っこをしてものけぞる、夜泣きや癇癪がひどい、言語の発育が遅い、もしくは早すぎる、ハイハイをしないでいきなり歩行する、つま先歩き、ライナスの毛布、固定のぬいぐるみ、頑固な偏食、スキンシップを嫌がる、首のきつい服を嫌がる 幼児期:おもちゃ、服装、食事にこだわりが強い、何時間でもゲームに没頭出来る、登園拒否、分離不安強い 場面緘黙(家以外では一言もしゃべらない)、オウム返し、チック症状 相手を選ばず話しかける、いきなり迷子になる、一人で交通機関を利用するなど、突飛な行動が多い、妖精や小人などの幻視体験、抑揚のないしゃべり方 ままごと、ごっこ遊びが出来ない、ミニカーを縦に並べて遊ぶ、タイヤや扇風機など回るものに執着する、電車や工事車両をずっと見ている、字が汚い、微細な運動が出来ない、ボール遊び、縄跳びが出来ない、重力不安、記憶力、言語能力、暗記力が異常に高い、知覚過敏(大きな音、光、匂い、味覚、締め付けのある服が苦手など) 学童期:自分から友達を作ろうとしない、人に興味がない、不登校 過去の嫌な記憶をずっと覚えており、クラス替えや転校しても不登校は変わらない、時にフラッシュバックを起こす。成績の凸凹 忘れ物、失くしものが明らかに多い、提出物を出さない、前日の準備が出来ない。夏休みの宿題を計画的に出来ない。 因みに、この中で不登校や引きこもりの原因になるのが、 上記の症状が、いくつか認められるのであれば、発達障害の可能性があるが、すぐに病院に連れていく必要はない。先にも書いたが、発達障害は性格の問題であり、基本的に治るものではない。 2.子供の発達障害の治療の考え方 衝動性や不注意が酷く、作動記憶(動作中の記憶力)が低い子たちは、とにかく躾が入らない。「どうしたら解るようになるのか?」「どうして、いつもだらしないのか?」「自分の育て方が間違っていたのか?」と、追い込まれて相談に来る両親は非常に多い。 先にも書いたが、発達障害に、家庭環境や育て方は関係ない。(虐待やネグレクトなどの特殊な環境では愛着障害を起こす可能性もある)不安定になる親のほとんどは、子供と同じ、発達障害を持っている事が多いが、他の子供と比べることで、自分の子供が出来ないことに目が向き、その劣等感から自虐的となり、容易に虐待、暴力やネグレクトに繋がるのである。 私の経験では、子供に興味が無く、虐待をする親、毒親、もしくは被虐待児のほとんどは発達障害である。 社会性とは人間関係スキルの事であるが、大きく分けて二つある。一つは職場や学校での社会での人間関係であり、基本は挨拶、謝罪、謝礼であるが、表面上の付き合い、聞き流し、見て見ぬふり、苦手な人との付き合い方などが含まれる。 表面上の、人との付き合い方というのは、家庭内という狭い環境では、教えることは出来ない。幼稚園や学校などの集団に属することで、失敗を繰り返し、人との距離感やルール、モラル、自分の感情のコントロールを学ぶのである。
もう一つは、プライベートな人間関係、例えば、家族、親友や恋人などとの友情や愛情、親密な関係である。これは生きていく上で、絶対に必要という訳ではないが、人生を楽しむためには必要な要素の一つである。 親密な人間関係を、築くために必要なのが、自己肯定感と、困っている人を助ける、思いやりの心、慈愛の心、共感する心、自己犠牲の精神であり、その人の価値を決めるもの、人として、最も尊いものであると私は考えている。
もし今現在、わが子が、社会性を学べない環境にいるのであれば、親だけでも医療機関や児童相談所、療育センターなどで相談や、自分で書籍などを購入し、発達障害の特性を調べ、育児法、対応法を勉強して欲しい。自閉症や発達障害の子供たち、自分の子供が見ている風景や、独特の世界観、考え方は、親として必ず知っておいてもらいたい。
3.ルール設定 何度言っても言うことを利かない、落ち着きがない、整理整頓が出来ない、だらしがない、勉強しない、すぐに癇癪を起こす、1日中ゲームばかり、私が診察の時に良く聞く母親からの嘆きである。 私が発達障害の子供を持つ親に、まず伝えるのは、 私が良く勧めるのが家庭内や学校内でのルールを文章化もしくは図画化し、各部屋の中に貼り、約束ノートを作成し、必ず報酬と罰則を設定することである。同時に親も子供の意見を聞き、親にやって欲しくないこと、言われたくないこと、(NGワード集)などを具体的に作成し、同様のルールを設定すると良い。 ルールを作る時には、常に具体的な内容であることが、大事なのであるが、最初から細かいところまで作る必要はない。いきなり沢山のルールを作っても守れる訳がないので、挙げたルールに優先順位をつけ、最低限のルールから徐々に増やしていくことが望ましい。 社会生活を送る上で、一番大事なのが、時間の管理である。 朝起きることが出来てから、歯を磨く、顔を洗う、服を着替える、体を洗うなどの身だしなみ、清潔管理を設定して欲しい。不潔で汗臭いと周囲の人を不快にし、いじめられる原因にもなる。歯を磨かなければ、口腔内が不潔になり、虫歯や病気になりやすい。子供の頃から、体を清潔に保つ習慣は、徹底して教えて欲しい。それが健康管理にも繋がる。 家庭外でやったら法に触れるような行動に対しては、出来るだけ早急に、厳しい対応が必要である。 自分の思い通りにならないと、大声を出す、恫喝、脅し、異性にいたずらをする、窃盗、破壊行動、暴力など具体的な行動に対しての、具体的なルール設定が大事である。将来犯罪者にしない為にも、必ず謝罪をさせることと、厳しい罰則を設定することが必要である。 もし子供が既に思春期になっていて、大きい体での暴力や暴言で、親の言うことを全く聞かず、ルールが守れず、法に触れる行為を繰り返すケースに対しては、家庭内だけでの解決は、もはや不可能である。(引きこもりのページ参照)
勉強時間や成績を、ルールに組み込むことも、悪いことではない。本来勉強は自分の為にするものであるが、発達障害の子供に、それを教えるのは非常に難しいし、目先の利益の方がよほど現実的である。勉強した時間、問題集の枚数などで、ゲーム出来る時間を決める、今度のテストの点数で欲しいものを買う、などは本人にも解りやすく、非常に有効な手段である。 罰則設定は一日で出来ること、例えば1時間机に座る、短時間ゲームを取り上げる、罰当番、罰金、今月のお小遣いを減らすなど、その日で完結することが望ましい。子供を叱る時には、大きな声は出さずに、冷静に張り紙を指さすだけで充分である。 しかしながら、 因みに常同行為とは一定の動作、ルーチン行動などを行うことで、心を落ち着かせる自閉症特有の症状である。指いじり、髪いじり、爪かみ、抜毛、貧乏ゆすり、独り言、指差し確認、着替えや食事などの順番、物の配置、儀式的な行為、などその子独自のルール、ルーチン、こだわりを持っており、それを遂行することで、気持ちを落ち着かせる効果がある。 罰則を設定するのであれば、必ず報酬も設定しなければならない。
4.コグニティブ・トレーニング 少年院に勤務している宮口幸治医師の書いた「ケーキの切れない非行少年たち」という書籍がある。少年院の中で、犯罪を繰り返し、反省できない子供達は、元々ベースに発達障害があり、聴覚情報や視覚情報の認知が歪んでいる。感情のコントロールや対人関係スキルを学ばずに育ち、失敗体験の蓄積から、怒りに変わり、犯罪を繰り返し、少年院に入っても反省が出来ない。そのような子供に、ケーキを3等分する絵を描かせると、縦に2本線を引いてしまう。というショッキングな内容である。 私も拘留中の被疑者を、診察することがあるが、窃盗、暴行、薬物、性犯罪など、罪の重さに関わらず、ベースに発達障害のある方が、ほとんどである。発達障害は遺伝的なものゆえ、家庭環境も良くないが、学校でも落ちこぼれ、自己肯定感、社会性やモラルが欠如しており、社会に適合できずに、犯罪を繰り返してしまうケースは、非常に多いのではないだろうか? そのような子供たちに宮口医師が推奨するのが、コグニティブ・トレーニング(Cognitive Training)と呼ばれる、認知機能改善トレーニングである。(略してコグトレ) 私立の小学校には、支援級というものが存在しない為、授業についていけない子供、座っていられない子供、問題行動ばかり起こす子供は、入学させたくない。そういう発達特性の強い子供たちを見つける為に、入試問題は巧妙に作られており、ペーパー以外にも親子面接、グループ行動、工作などの課題もあるのだ。
集団の中で、聴覚情報や視覚情報を正確に理解し統合し、作動記憶を保ちつつ指示通りに行動に出来るか?衝動性や自己の感情を抑え、ルールが守れるか? 細かい工作作業で、巧緻性を鍛えることが出来るか? 与えられた情報から自分で想像し、それを言葉や図に表すことが出来るか?などなど、入試の為というよりも、将来の就労に結び付く、重要な内容がほとんどであり、私も感銘を受けた。 又、この絵の中で悪い子は誰でしょうという問題や、困った時にはどうしたら良いか,この場面ではどうしたら良いかと自分で考え答えを出す課題も多い。これはカウンセリングの手法である、SST(Social
Skill Training)やコーチング(Coaching)に準ずる。空気の読めない発達障害の子供には非常に有効な手段である。 そもそも、見る(読む)力や聞く力が弱く、認知の歪んだ子供たちが、小学校で机に座って、授業を受けても、その内容を理解することは出来ず、授業時間がつまらなくなり、空想や落書きになってしまうのは仕方がない。 鍛えるのは、見る(読む)力、聞く力、どちらか一方でも構わない。というか、人は皆、情報処理に対し、聴覚と視覚で優位性があると言われている。簡単に言えば物を覚える時に、文字や図を見て覚えるタイプか、何度も聞き復唱して覚えるタイプであるが、発達障害の子供たちはこの差が著しいと言われており、それによって勉強法も変わってくるのだ。視覚優位な子は何度も書いて文字化や図画化、聴覚優位な子は、何度も聞いて語呂合わせやリズムで勉強すると良い。
私の外来に、言語性IQが130を超える、発達障害の女子大生がいるのだが、特別な英才教育を受けた訳ではなく、両親も普通の人である。彼女の場合、子供の頃から自分が解らないことがあると、すぐにスマホやPCで検索する癖がついていた。 難しい漢字や熟語 慣用句から、自然現象、歴史、文学、科学、数学など、ジャンルに関わらず検索し、納得するまで調べたそうだ。 5.病名告知と薬物療法 小さな子供に発達障害を告知するのか?薬を飲ませるのか?というのは、日常の診療でも良く聞かれる相談である。発達障害の子供は小学校に入ってから、徐々に自分に違和感を覚え、皆と違うことが、コンプレックスになっている子も少なくない。中学高校と年を重ねる程、その傾向は強くなり、ちょっとした虐めや失敗で、容易に不登校に陥る。 私は言語理解力に問題ない子であれば、 中にはそれでショックを受け、認めない子供もいる。そういう子供達は、人と合わせなくてはいけない、他人と違うことは恥ずかしい事、悪い事である、と親や教師から刷り込まれた子供達である。本人が認めなくても、年齢を重ねるごとに違いは顕著になり、周りと合わせようとすればするほど、空回りし、失敗体験から自己嫌悪に陥いってしまう。そうなる前に早々に告知をし、本人にも認めさせた方が良いと私は考えている。 薬物療法についても否定的な親は多いが、自分で感情のコントロールが出来ない、いくらルールを設定しても、問題行動が止まらない、いくら努力をしても、勉強に集中出来ない子供達には、早い時期から積極的に薬物療法は行うべきである。 小児の脳は未熟であり、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニンといった、心を形成する神経細胞回路(シナプスネットワーク)が出来上がっていない。乳幼児期に親の愛情を受け、色々な情報を得、自分で考えること、訓練することで、脳は発育していくのであるが、 私が小児の発達障害に処方する薬は分量が少ないだけで、基本成人と同じであるが、(大人の発達障害の項参照)一番効果があると実感出来るのが、コンサータである。 今の日本社会、人は皆平等と言っても、実際は格差社会であり、余程の特殊能力や閃きが無い限り、学歴と所得はシンクロしている。いくら学力があっても、対人スキルや優しさが無ければ、社会適応は難しいのであるが、学力学歴が無いと選べる業種は少なくなる。学力は無いよりは、あった方が絶対に良いのだ。薬物を使ってでも成績を上げることは、その子の社会的な予後を大きく左右すると考えて欲しい。 貴方が将来もらえるお金を増やす為、 何故、学校に行かなければいけないのか? 仕事に就いた時に出会う、苦手な人との付き合い方を学ぶ為、 と、私は子供たちに説明している。 6.学習障害 いくら努力して勉強しても、薬を投与しても、成績が上がらない、科目によっては全く理解できていない場合は、知的障害もしくは学習障害の合併を考える。 私がよく外来で遭遇するのが、漢字やアルファベットを、文字として認識出来ず、歪んで見える、一桁の加算も暗算が出来ない、文章が作成できない、聴覚での理解が出来ず指示が入らない、二次元を頭の中で三次元に変換できず、地図が読めない、人の顔の凹凸が解らず、名前を覚えられない、人の表情が全く読めない、などである。 これらの症状は訓練で改善することはなく、一生治らないものである。人間関係や就労にも、支障をきたしていることも多く、発達障害の中でも、非常に厄介な症状の一つである。 小児の場合、学校に電卓やスマホを持ち込むことは出来ないので、非常に苦労することになる。 可能であれば、学習障害を知っている、教師や塾講師に個別指導を頼むと良い。 知的、発達の問題や学習障害の可能性を学校の担任が気付き、療育相談や支援級の利用を勧めても、「うちの子供は違う」と拒否し、無理矢理、普通級に行かせる親も多い。 そもそも、壇上で教師が訳の解らない話をし、周囲の子供達がそれを理解しているのを見て、自分だけが解らない、でも、ずっと机に座っていないといけないというのは、かなり辛い状況ではないだろうか? 7.優しい子供に育てる為に 自分の子供を、どんな子供にしたいか?という問いに対して、多くの親は、優しい子供に育ってほしいと答えるだろう。その為にどうやって、何を教えればよいのか?という問いに対しては、非常に頭を悩ますはずである。 優しさというのは親切心、助け合いの精神、いたわりの心、困っている人を助ける自己犠牲の精神から生まれるもので、それが友情や愛情に繋がり、その人の人生を豊かにする。私は人として最も尊く、その人の価値を決めるものと考えている。 そのような子供たちに、友情や愛情を教えることは、非常に難しいことである。 人類進化の歴史を考えると、我々ホモ・サピエンスは、社会性を持つこと、大人数のコロニーを作ることで、氷河期の大量絶滅を、何度も生き残る事が出来た。仲間同士助け合い、思いやる、いたわりの精神というのは、ミラーニューロン(模倣する遺伝子)と、共感する遺伝子によって、獲得するものであり、本能的に、人は皆、生まれながら持っているはずである。 ただ遺伝子の発現に関しては個人差があり、自閉症やサイコパスと呼ばれる人は、共感する遺伝子の発現が低いと言われている。人の性格を決めているのは、全て親から引き継いだ遺伝子であると提唱する研究者もいたが、最近では遺伝だけではなく、成育歴や教育歴も、大きく関与しているという報告の方が多い。いつ他者の存在を認知し、どのようなタイミングで共感性を獲得しているのかは諸説あるが、出生後に獲得しているのは間違いない。 心をリラックスさせる、落ち着かせるのは、脳内の偏桃体でのセロトニンである、セロトニンはノルアドレナリンやドーパミンの分泌を、調節する働きを持っている。幼少時にその神経系を強化することが出来れば、共感性、友情や愛情を鍛えることが、充分に可能であると私は考えている。 乳児期には、とにかくスキンシップを取ること、抱きしめることが大事である。中には触覚過敏や重力不安などで、抱っこを嫌がる子供もいるが、頭をなでる、頬ずりする、手を繋ぐだけでも諦めずに毎日必ず、行って欲しい。もし癇癪や夜泣きが、あまりにも酷い場合は薬物の投与も考えること。睡眠薬や抗不安薬は乳児には処方出来ないので、小児用の総合感冒薬(抗ヒスタミン剤)や抗アレルギー剤が有効である。 言語の発育が進んだら、「ありがとう」という言葉を教えると良い、朝起きてくれてありがとう、ご飯を食べてくれてありがとう、笑ってくれてありがとう、手を握ってくれてありがとう、子供との生活をその言葉で満たして欲しい。そして出来ないことが出来た時には、すぐに褒めること。「よくできたね」「凄いね」「お母さんも嬉しい」と声をかけ、抱きしめて欲しい。 又親が間違ったことをした時には、素直に子供に謝ること。親も人間である為、時に感情的になり、手を挙げてしまうこともあるだろう。それを悔いて相談に来る親も多いが、すぐに謝ることが出来れば、子供が曲がった方向に行くことはない。 毒親に育てられた子供が、親になった時に、「私は自分の親みたいになりたくない。完璧な良い親になりたいんです」とよく外来で聞くのだが、絶対に間違いを犯さない、いつも正しい、完璧な親というのは、子供にとって、自分もそうならなければいけないという、プレッシャーを与える、窮屈な存在でしかない。 日々の挨拶と、「ありがとう」「ごめんなさい」は 幼児期になると、色々と失敗や問題行動を起こす子も、多いのであるが、頭ごなしに叱るのではなく、冷静に「同じことをされたら、どう思う?」と言って諭していくと良い。 子供の頃から、自然や生き物に触れ、自分で動植物を育てるということは、いたわりの精神、命の尊さを教えるのに最適である。皆さんも小学生の頃に、朝顔の観察日記をつけたことがあると思う。毎日、手間暇をかけて、徐々に大きくなって、花が咲いた時には嬉しかったはずである。犬、猫、鳥、カブトムシやメダカやザリガニなど、出来れば卵や幼虫、ひな、仔犬、仔猫の頃から成長する姿を見せて欲しい。 生き物を飼うということは、一生面倒をみるということでもあるのだが、最初だけ可愛がって、後は面倒見ないという子供たちは多い。親が代わりに面倒をみるのではなく、それによって生き物が弱った姿、死んだ姿を見せ、悲しみ、一緒に埋葬して手を合わせることを必ず行って欲しい。そこまでやって、初めて命の尊さを学べるのだ。 集団行動やスポーツ、登山、キャンプ、山村生活などに、参加させるのも有効である。最近は自閉症の子供達を集め、専門家が同行するイベントも沢山ある。どういう訳か、自閉症、発達障害者同士は親和性が高く、親友、夫婦になっている人も多い。家庭内では学べない、他人との付き合い方を学べる、絶好の機会であるので、是非参加して欲しい。
アニメの登場人物も、対人コミュニケーションの良い手本となる。特に我が国のアニメは、スタジオジブリに代表される、日本人特有の情緒や、心の葛藤、正義感、優しさ、人間らしさ、ルール、モラルなどが、巧みに盛り込まれている作品が非常に多い。アニメでなくても、戦隊ものや仮面ライダーなどの、勧善懲悪の特撮でも構わない。 ただyoutubeの動画や、録り貯めていたものを、何話もたて続けて見せていても、あまり意味はない。必ず親も一緒に見て、CM中や一つの話が終わった時に、必ず登場人物の言動や、行動がどう見えたのか?何故泣いている?何故笑っている?何故あのような行動をとったのか?問い、もし、貴方が同じ状況になったらどうすれば良いのかを話し合って欲しい。 児童精神科や、小児のカウンセリングでは、他者の気持ちが解らない子供たちにロールプレイや、プレイ療法といった技法を使う。一緒に遊びながら、あらゆる場面で対話形式に、その時々の感情や気持ちを伝え、患児から言われたことや、されたことで、どう感じているか、どういう感情を持つか、悲しい、嬉しいとか、を具体的に教えていき、役割を交代させる。そういう作業を繰り返すことで、他者の存在を認め、労うことが出来るようになるのだ。 8.友達の作り方 発達障害の子供たちは、対人緊張が強い、人に興味が無い、どう話しかけたら分からないなどで、中々友達が出来ない、自分から輪の中に入れない子供も多い。無理に友達を作るように強要する必要はないのだが、誰かと共感する、感動する、他人との距離感を学ぶ、という経験は人格形成に、非常に大事な要素である。 食べ物でも、動植物でも、玩具でも、乗り物でも、アニメでも、ゲームでも、動画でも、お笑いでも、スポーツでも何でもよい。とにかく興味を持つものを作ること、現時点でそれがないのであれば、親も一緒に、色々な所に出かけて探して欲しい。趣味や興味があるとないのでは、その子の後々の人生を、大きく左右することになる。どんなものでも、馬鹿にしたり、否定したりせずに根気よく探すことが大事である。 それが見つかった時には、そのことを、図鑑やネットなどで、掘り下げて調べて欲しい。そして本人が知識をつけたこと、上手になったことに対して素直に称賛すること、褒めることが、自己肯定感を養うのにも非常に有効である。 発達障害に限ったことではないが、現在テレビゲームに没頭する子供は多い。それを否定する親も多いが、ゲームの話は、子供とのコミュニケーションを取るのに、最適な話題である。殺戮シーンや、グロテスクな描写のあるゲームは良くないが、自分で考えるゲーム、謎を解くゲーム、何かを作るゲームなどは知育にも有効である。 子供が、どんなゲームをしているのか調べ、「上手だね」「凄いね」と褒めてあげて欲しい。ただ発達障害の子供は、過集中があり、放っておくと一日中でも没頭するので、プレイする時間は、決めた方が良い。私は報酬罰則設定に、ゲーム時間を組み込むことを、勧めている。 興味を持つものが出来れば、そこから友達を作ることは簡単である。自分が好きなものを他人も好き、それは、とても嬉しいことであると教え、その気持ちが容易に友情に変わるのだ。語彙力が少ない子供でも、自分の興味のあることについては、延々と話し続ける子供は多い。 9.それでも不登校になってしまったら
幼少時から、社会性を学ばせ、モラルやルールを教え込んでも、不登校になってしまう子供たちもいる。前にも述べたが、育児のゴールは自立であり、高校を卒業すること、大学に進学させることではない。いきなり否定するのではなく、何故学校に行きたくないのかを、冷静に聞き出すことが大事である。その中で、除外しなければいけないのが、病的な精神症状で行けなくなるケースである。(ひきこもりの項参照)
周りが自分の悪口を言っている。嫌われている。体臭、おならや嘔気に対しての強迫観念。幻聴が聞こえる。不潔恐怖。誰かに監視されている、自分に危害を加えられるなどの言動がある場合は、統合失調症や強迫性障害などの精神疾患の可能性がある。その場合は薬物治療(リスパダール、サインバルタ、抗不安薬)が効果あるので、まずは病院受診が必要である。明らかに勉強がついていけていない場合は知的障害や学習障害の可能性を考え、児童相談所、療育に相談し知能検査を施行すること。
先にも述べたが、発達障害の子供達が不登校になってしまう原因で、私が外来で最も多く遭遇するのは、一度嫌な経験であると認識すると、それが打ち消せず、頭の中でグルグル回り、そのことばかり考えてしまうケースである。
ストレスというのは主観である為、何にストレスと感じるかは、その人の価値観で決まってくる。それゆえ、苛めや体罰でなくとも、先生に少し強く言われた、自分の言ったことを覚えていない、遅刻をして恥ずかしい思いをした。友人に挨拶をしたら無視をされた、授業中に失言して笑われた、先生に難しい問題を解くように言われた、ラインで自分の名前が出た、自分の外見を批判されたなど、 その次に多いのが、学校に興味がない、行く意味が見いだせない例である。これは大学生に多いのだが、明確なストレスは存在せずに、単に学校が好きではない、勉強に興味が無いのである。親しい友人とクラス替えで離れた、好きな部活を引退して、学校がつまらなくなった例、ゲーム、ネットの方が学校の優先順位より上になった例、昼夜逆転、繰り返す遅刻で、学校に行くのが面倒になった例、、アルバイトや夜遊びの方が楽しくなった、などで不登校になることが多い。
勉強するだけであれば、塾や家庭教師、自分で参考書を読み、ネット配信などで十分に出来るであろう。特にIQが高いASPの子などは、勉強しなくても、トップ成績は取れてしまう。しかしこれは中学生までの話であり、小中で勉強する習慣がついていないと、高校で授業についていけなくなり、成績は急降下するケースは多い。 学校という大人数の閉鎖的な空間は、ルール、社会性、対人コミュニケーションスキル、生活リズム、を教える最適な場所である。それらをクリアできなければ、その子は将来仕事に就いた時に、苦労することになるのだ。
そのことに納得して貰ったら、まずは朝起きて玄関を開ける練習である。ある程度生活リズムが保てるようになったら、親が担任に相談し、保健室登校や支援級、スクールカウンセラーの利用を検討してもらう。 過去の嫌な記憶に支配され、フラッシュバックが止まらず、全く学校に近づけないケースは、いくらルールを設定しても無理なので、内服薬が必要になる。少量のリスペリドンや抗不安薬などを登校前に服用するか、サインバルタ、ストラテラ、インチュニブなどの内服が多少効果ある。それも効果が無い場合は、早急にフリースクール、適応指導教室、通信制の学校に転校を考えること。
社会性を学ぶ場所は、学校でなくてもよい、
10.発達障害の子供を持つ親たちへ 自分の子供が、発達障害であることが解れば、何故躾が入らないのか、この子は出来ない子なのかという謎は解ける。と、同時に自分の子供は障害児であると、落胆する親も多い。成人の項でも述べたが、発達障害とは、単に性格、個性の問題であり、決して劣っているとか、ダメな子ではない。 私も外来で、色々なケースを診てきたが、他の子比べて素直でまっすぐ、行動力がある、ユニーク、突飛な行動、解りやすい性格などから、溺愛されている子供達も多い。 先にも述べたが、親としての責務、ゴールはその子を自立させることにある。生まれつき能力に、凸凹がある発達障害の子供を、そこまで持っていくのには、苦労も努力も、人一倍しなければならないだろう。そこに必要なのは、自覚と、工夫と、リハビリ、そして時間である。 最終的に家を出て、社会生活を送り、自分の力で自分が使うお金を稼ぎ、他人に迷惑をかけずに、自分の人生を楽しむ状態まで、持って行けた時、親としての責務を果たした時の達成感は、何にも代えがたい、素晴らしいものではないだろうか? 大人の項でも書いたが、子供の頃に発達障害に親が気付き、落ちこぼれ、失敗体験を繰り返す前に、療育に乗り、支援する人が出来れば、クラスから劣等生が減り、不登校や引き籠りが減り、いじめが減り、児童虐待や犯罪者、悲惨な犯罪被害者も減る、 最後に発達障害を持つ子供の親たちへ、この手記を送りたい。
オランダへようこそ 作:エミリー・パール・キングスリー
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