はじめに・・・・
私がこのHPに発達障害の記事を書いてから、もう15年くらい経つが、あれから、発達障害の知名度が上がり、発達障害を診察できる病院も爆発的に増えた。それに伴い、生活訓練センターや障害者就労支援センターが各地に作られ、障害者雇用率も上がり、引き籠っていた、生き辛かった発達障害の患者さん達も随分と減ったのではないだろうか?
当院でもメンタルで診ている患者の9割は発達障害となってしまい、初診再診を合わせ、月に600人くらいの患者さんを診させていただいている。
その多くは他院で「難治性うつ病」や「双極U型障害」「統合失調症」などと誤診され、色々な薬剤を長期間大量に処方されても良くならず、転職を繰り返し、社会から孤立していき、自分は社会不適合者であると、人生を諦めてしまっていた人達である。
「貴方は病気ではなく、生まれつきの性格、個性 脳の構造の問題である、
周りの人と比べて、薬を飲んで、待っているだけでは良くならない」
この一言を伝えるだけで、
「今まで、自分に感じていた違和感の謎が解けた」
「何故自分は仕事(家事)が出来ない、続かないのかが解った」
「(ご両親より)私達のしつけや育て方が悪いのではなかった」
「自分はだらしない、ダメな人間では無かった」
と涙を流して納得される患者さん達を沢山見てきた。
昔は「発達障害と言えば自閉症」という考えが主流であったが、1944年にオーストリアの小児科医であるハンス・アスペルガー医師が言語の発育や知能の遅れがなく、計算能力や暗記能力が異常に突出した子供4例を、論文に発表したが、当時はナチスドイツの統治下であったため、あまり注目されなかった。
その後1981年に米国の児童精神科医ローナ・ウィングが、アスペルガーの論文を再評価し、「アスペルガー症候群」と命名したことから、その名は世界中に知られるようになった。WHOが正式に認めたのは1992年のことである。因みに近年になって、アスペルガーはナチ党に入っており、ヒットラーの掲げる優生法を支持し、障害のある乳幼児を積極的に安楽死させていたことが明らかになり、診断基準から「アスペルガー症候群」という名称が消え、「自閉症スペクトラム障害」という診断名に変わりつつある。
日本で発達障害を最初に紹介したのは、1997年に精神科医の司馬理英子医師が「のび太ジャイアン症候群」という書籍でADHDを紹介、「アスペルガー症候群」の名は2000年に起きた豊川市主婦殺人事件で、日本中に知れ渡ることとなった。この事件は当時17歳の男子高校生が主婦を殺傷した事件であり、逮捕後の精神鑑定で犯人が同障害であったことが解り、その動機が「人を殺してみたかった」という衝撃的な理由であったことから、日本中を震撼させたのだ。
また1997年の神戸市児童連続殺傷事件の加害者少年AがADHDの診断を受けていたことや、2003年の長崎男児誘拐殺害事件、2013年佐世保同級生殺害事件、2018年新幹線殺傷事件などが報道されるたびに、発達障害という言葉が度々メディアに登場するようになった。私は動機が衝動的で不可解、理解不能な事件の加害者は皆、発達障害があると考えている。
又、多くの芸能人、有名人が自分が発達障害であることを、次々とカミングアウトしてくれたお陰で、「発達障害」「アスペルガー」「ADHD」などという言葉が非常に身近になった。最近はHSP(感覚過敏症)や複雑性PTSD、愛着障害 ギフテッドなど、発達障害に類似もしくは、随伴した性格傾向にも名称がつき、逆に診断を複雑化している印象である。
私は性格傾向、性格障害を細かく分類する必要はないと考えている(後述)
(福祉の利用や、自分の性格を他人に説明する時には有用。)
しかしながら、発達医療、福祉の進行具合には地域差があり、未だに発達障害を難治性うつ病やU型双極性障害、気分変調症などと誤診されて、私の所に来るケースもまだまだ多い。多くの発達障害の患者が効果の無い高価な薬剤を延々と処方されているのが今の現実なのだ。
1.発達障害を診断する前に・・・
発達障害は大まかに以下に上げるような分類がある。
(詳しい内容は患者さんからの?の「発達障害について」参照)
・自閉症スペクトラム障害(ASD)
自閉症(AD)+アスペルガー症候群 広汎性発達障害(=知的に正常で会話のできる自閉症)
こだわりが強い 嫌な記憶が消せない 過集中 知覚過敏 空気が読めない
マイペース 常同思考 常同行為 相手の意図が読めない 共感の欠如
カナー症候群:知的障害+自閉症
・注意欠陥多動性障害(ADHD)
不注意:好き嫌い 興味のあるなしで集中力が変わる 忘れ物 失くし物 成績の凸凹
自己管理に興味がない→ 片付けが出来ない 金銭管理困難 時間の管理困難
多動:幼少期:落ち着きがない 体動 手遊び 立ち歩き
成人期:一つのことをグルグル考える(思考の多動)
衝動性:癇癪 思い立ったらすぐ行動 失言 衝動買い 後先考えない衝動行為
瞬間湯沸かし器 感情がコントロールできない
・限局性学習障害(LD)
文字(漢字)や文章の読み書き 読解力 聴覚での理解 文章構成力 計算力(暗算)
顔と名前を覚える 推測能力 空間認知能力 などの学習能力のうち、
一つ以上の能力が物凄く苦手
・発達性協調運動障害
運動音痴 不器用 体育が苦手、よく転ぶ 体をぶつける 字が汚い
以上のように分類されているが、
実際外来で遭遇する患者さんのほとんどが、
2つ以上の特徴を少しずつ合わせ持っている。
さらにASPでも積極的にコミュニケーションを取ろうとするケース(奇異反応型ASP)や、ADHDも不注意型、衝動型など分類され、多動が目立たないものや自己管理がよく出来るケースも存在する。それゆえ発達障害というのは脳の器質的な障害の部位(凸凹)や、育った生育環境や愛着障害、トラウマなどの後天的性格変化、二次障害の有無などでも変わってくる。
最近では性格を分類する言葉も増えており、単にアスペルガーやADHDという診断だけでは、症状を説明できない人がほとんどであり、症状特性に全て名前をつけてしまうと膨大な数の診断名がついてしまう。
実際の臨床では、色々な要素の複合体、
一人一人症状が少しずつ違うと思った方が良い。
その他の障害とは
知的障害 コミュニケーション障害、協調運動障害 行為障害
反抗挑戦性障害 チック障害 緘黙症
各種人格障害(妄想性、分裂病質 分裂病型、境界型、反社会性、自己愛性、演技性、回避性など)
後天性人格変化(愛着障害 複雑PTSD アダルトチルドレン)
HSP(感覚過敏症) ギフテッド サイコパスなど。
どんな分類をしたとしても病気ではなく、性格の問題である為、治療法としては、対処的な薬物療法と自分の性格を理解し、環境調整を行なうしかない。それゆえその患者の治療や予後のことまで考えると、成人においては、単に「発達障害」や「自閉症スペクトラム」「神経発達症」という大まかな診断で十分であり、
細かい発達障害の分類は不要であると私は考えている。
発達障害の人が病院を受診するのは、
「適応障害」=「二次障害」を起こした時である。
二次障害とは、ストレス反応性うつ状態や不安緊張、身体症状 解離症状 強迫観念 引き籠り、幻覚妄想など、ありとあらゆる精神症状を認めるが、必ずストレス因(心因)が存在し、内因性の精神疾患とは全く違うものである。
今の生活の中で、困っていることは何なのか?
どんなことに不都合を感じるのか?というのは、患者が社会生活を送る中で、自ら分析していくものであり、その症状は病気ではなく性格の問題からくるものと、認識出来るかどうかが重要、さらに言えば、発達障害であるかどうかよりも、病気のように安静や薬物だけでは治らないと自覚することが大事なのである。
職種や環境によってもどのような支障が出るかは人それぞれであり、無理に全ての症状と向き合う必要はない。例えば、人間関係の少ない自営の仕事であれば、無理にコミュニケーションを鍛える必要もないし、ゴミ屋敷に住んでいても、会社に行けていれば気にしなくても良いのだ。
ちなみに、この中で成人期まで発見されにくいのは、圧倒的にASPとADHDであり、両者の症状の強弱はあるも、実際は常に併存している。私は同じものを違う角度から見ているだけではないのか?と考えている。
家族全員に発達障害や知的障害を認めるとか、よほど閉鎖的な環境、例えば幼少の頃からずっと不登校やネグレクトを受けていない限り、言語の遅れのある自閉症、多動が目立つADHDなどは就学中に、ほとんど見つかるはずである。(LDは成人になっても解らないことが多い)
2.発達障害の診断T(親の話と家族歴から)
発達障害に限ることではないが、精神障害の診断をするのに重要なのは、
現在の症状よりも今までの経過である。本当にうつ病の項参照
性格の問題を診断する時に重要なのは、その性格特性が
幼少時、思春期から持続しているということ、
さらに発達障害の場合、一番大事なのは、
幼少時(乳児〜8歳くらいまで)の
性格がどうだったのか?である。
ここで注意するのは、発達障害の患者(特にASP)何が常識で、何が普通なのか解らないということ。それゆえ本人の言う「子供の頃は問題なく、普通だった」もあまり当てにはならない。そうなると正確な経過を聞く上で、重宝するのは親の話である。 (詳しくは子供の発達障害参照)
まずは発達障害になりうる後天的な要素がないか聞くことが重要である。出産時の状況、特に低体重出生児、出生時仮死状態、てんかん発作の有無、脳炎、髄膜炎、頭部外傷の既往などは、知的障害や発達障害の原因となりうるので必ず聞くこと、また被虐待児(愛着障害)も発達障害と酷似した症状になるので注意が必要である。
乳幼児期の一般的な特徴としては、発育が遅い、もしくは異常に早い、目を合わさない、のけ反って抱っこが出来ない、ハイハイをしない(いきなり歩く)、吃音、つま先歩き、重力不安、チック症状 特定の玩具、布生地を手放さない(ライナスの毛布)、癇癪 夜泣きが酷い、予防注射を異常に嫌がる、お遊戯会や運動会で周りに合わせない、自分から声をかけて友達を作れない、一人で遊ぶことが多い、もしくは誰かれ構わず話しかける、急に道路に飛び出す、よく迷子になる、一日中ゲームに集中することが出来る 同じアニメや動画のシーンを繰り返し何度も見る などが良く聴収できるが、要は・・・・
・貴方のお子さんは、幼稚園や小学校低学年の頃、
周囲(他の兄弟)と比べると少し変わった(違う)子だったか?
(扱いづらい、手がかかる、もしくは全く手がかからない子供だったなど)
・幼少時と、今のお子さんの性格は
そんなに変化していないか?
この二つの質問の答えが「イエス」だった場合は、
何らかの性格障害の可能性があると私は考えている。
もし「ノー」だった場合、一応考えるのは、発達障害は遺伝するということ、ゆえに親も発達障害ということは十分にありうる。発達障害の遺伝率は70%以上と言われているため、実際はどちらかの親が持っている可能性の方が高いのだ。
親や子供が発達障害であれば、その人も発達障害という可能性は高くなるのであるが、そうなると親の話も当てにならないということにもなる。一緒に来ている親の態度にも注意し、発達障害の可能性があると考えたら、もう一人の親の話を聞くことも大事である。
家族歴の聴収は必須である。
必ず両親や子供、兄弟の通院歴ではなく性格傾向を聞き、本人と性格が似ているか、そのような親にどのように育てられたのかを聞くこと。私の経験では後天的な要素が無い場合、2親等くらいまで調べると、9割以上に、発達障害と思われる親族(いわゆる変わった性格の持ち主)が存在している。 最近では自分の子供に発達障害が見つかり、自分も同じ性格傾向に気が付き、受診するというケースが非常に多い。
余談であるが、最近発達障害が増えている理由の一つに「性淘汰」があるのではないか?と私は考えている。これは環境への適応力や狩猟能力、生き延びる術に優れた種が生き残る「自然淘汰」とは違い、適応能力や生産能力よりも「性的に魅力」があるものが種を残すという考え方で、羽の長いクジャクやオナガドリなどが典型である。
常々考えていたが、発達障害の患者さんは美男美女が圧倒的に多く、中には、モデルや芸能関係の仕事をしている人も少なくない。(実際芸能界には沢山居るのではないだろうか?)又、不器用さは人間らしさでもあり、素朴で真面目、愚直な男性や、言うことがコロコロ変わる、感情的になりやすい、情熱的な女性は非常に魅力があるのではないだろうか?
それゆえ発達障害者同士は親和性が高く、夫婦になっているケースが多数見受けられ、家族全員が発達障害というパターンは非常に多い。外見的にも性格的にも、性的に魅力があるものが種を残しやすいことで、今後も発達障害者は増え続けると私は予想している。
昔の性格と今の性格が全く違うという回答が返ってきた時には性格障害の可能性が低い。その場合は何らかの精神疾患、特に「統合失調症」と「強迫性障害」を疑うこと。
精神疾患以外でも、後天性、外因性に性格が変わることもある。例えば頭部外傷や脳出血、脳梗塞、脳挫傷、脳手術、てんかん、ヘルペス脳炎などによる直接的な脳細胞の破壊。アルツハイマー病、ピック病、ハンチントン舞踏病などの脳変性疾患。膠原病(SLE)や甲状腺異常などの身体疾患によるものなど、これらは頭部MRIやSPECT、血液検査で判別が可能である。
(脳挫傷は画像では解らないが・・)
稀にアルコール依存症や重度の拒食症によるウェルニッケ脳症、インスリノーマ、インスリン注射による低血糖脳症、繰り返しの大量服薬や窒息による低酸素脳症、シンナー、覚醒剤、一酸化炭素、ブロンなどによる中毒性脳症などで性格が変わることもある。これらは、通常の検査では異常が見つからないことが多く、治ることもないのだ。(一度壊れた脳神経細胞は再生しない)
発達障害の子供は非常に扱いづらく、親は育児に苦労をすることになる。
(因みに子供を虐待する親のほとんどが、発達障害である)
それゆえ厳しく接することが多くなり、そのような環境で育った子供は過去のトラウマと、我慢のしすぎから二次的に「愛着障害」や「複雑性PTSD」「アダルトチルドレン」を合併することが多い。
こうなると親に怯えながらも、非常に手のかからない子供に成長し、大学まで問題なく就学するのであるが、本質的な性格は変わっていないので、社会に出てから物凄く生き辛さを感じ、人間関係で悩むことになるのだ。
そういう意味で「我慢を学習する前の性格特性」が発達障害の診断には非常に大事なのである。
私の経験だと社会適応が良かった発達障害の患者さんは、
ほぼ全例にこの「アダルトチルドレン(共依存)」を合併している。
このことが日本での発達障害の診断を非常に難しくしていると私は考えている。(参照:アダルトチルドレンの背景にあるもの)合併している場合は、発達障害の治療だけでなく、アダルトチルドレンの治療(トラウマ処理)も併用すべきである。
3.発達障害の診断U(本人の話から)
親の話が聞けない、もしくは当てにならない場合は、本人に記憶がある幼少期以降の話から推測していくしかない。以下の項目に注意しながら聴収して欲しい。
(詳しくは子供の発達障害参照)
小児期〜思春期
癇癪持ち、こだわりが強い、不登校の既往(特に小学生高学年〜中学生)。その不登校はクラス替えや転校をしても続く。嫌な思いを一度するとそのことばかり頭の中に残っている。授業中の立ち歩き、手遊び、貧乏ゆすり、質問攻め、授業妨害、先生の言うことを聞かない、ルールが守れない、班行動が苦手、正義感が異常に強い、子供の頃から自分は何となく変わっているという自覚があった。友情や愛情が理解できない 暴力、暴言、引き籠り、少年犯罪、共感性の欠如、反省できない
得意科目は優秀なのに不得意な科目は全く出来なかった。先生の授業が聴くだけでは理解できない 漢字 アルファベットが読めない書けない 国語の文章問題を解くのが苦手、興味のない本を最後まで読み通すことが出来ない 暗算、分数 割り算が出来ない、図形の問題が解けない、頭の中で2次元を3次元に想像できない、地図が読めない、美術の模写が苦手、不器用で家庭科、楽器、工作が苦手 運動音痴、球技が出来ない、
自己管理が出来ない 時間の管理が出来ない 朝一人で起きれない、計画性がない、夏休みの宿題が終わらない 忘れ物失くし物が多い 部屋の片付けが出来ない。体を触られるのが嫌い、タートルネックなど、きつい服が着れない、聴覚過敏、極度の偏食、摂食障害 味覚異常、など何らかの知覚過敏症状。重度の片頭痛(自家中毒)、起立性調節障害、過敏性腸炎、
青年期〜大人(社会人)
人の顔色や場の雰囲気が読めない。気が利かない、同時進行が出来ない。優先順位がつけられない。人に言われたことを全て真に受ける。曖昧な指示が理解できない、指示代名詞が解らない、難しい嘘がつけない。時間の管理、金銭管理や部屋の掃除が出来ない。失言が多い、雑談世間話が出来ない、部下に指示が出せない、冗談や慣用句が理解できない。気を利かせる、自分の判断で動くことが出来ず、予期せぬ出来事が起きた時にパニックになる。瞬間湯沸かし器、一つのことに集中すると周りが目に入らなくなる。行き当たりばったりの行動が多い(いきなり転職、海外を放浪するなど)
これらの症状は年齢と共に消失もしくは出現していくことが多いので、幼少期〜思春期〜成人期と経過を追って話を聞いていくこと。
先にも述べたが、発達障害の患者は記憶が曖昧な幼少時でも嫌なことはしっかり覚えている。(逆に言うと、嫌な記憶を消し去ることが出来ない)又、一つのことを考え出すと、頭の中でグルグル回り、(思考の多動という)引き籠りの原因になるのだ。(後述)
以上の項目からも推測できると思うが、発達障害の患者は、幼少時の繰り返された失敗体験から、自分は出来ない ダメな人間であると、自己肯定感が減衰、欠如しているケースが非常に多く、時に生き辛さから自殺、怒りの感情から、自殺や犯罪に発展してしまうことも少なくない。自己肯定感を上げるには、過去や現在の中で、成功体験を見つけていくしかないのであるが、定型発達と自分を比べているうちは非常に難しいのだ。
4.チェックリストと知能検査
最近発達障害の診断チェックなるものが出ているが、(自閉症指数AQ ADHDスコアなど)先にも書いたように発達障害の患者は何が普通で、何が異常かも解らず、自分を客観的に見る事が苦手である。
さらに「自分は正常でありたい」と思う心理は誰にでも存在し、客観的には当てはまっていても、本人は認めない患者は多い。
ゆえにチェックリストは、本人が発達傾向を自覚しているかどうか、どれくらい生き辛いのか、主観と客観のギャップの評価を調べるのに有用であるが、診断の役には立たず、異常なしと示しても、実際は正しく評価できていないことも多いのだ。(PARSなど親がチェックリストに答える場合は別。但し親が発達障害でないことが前提。)
実際私のところに来た患者でも、経過と母親の話からは何らかの発達障害があるのは明白にも関わらず、市で行なった検査では発達障害ではないと言われ、福祉の利用や手帳申請、職業訓練所を利用するのに苦労したケースも少なくない。特に成人の場合は、診断はチェックでなく、幼少時から今までの経過と総合的な判断で医師が下すべきである。
私個人としては、IQ検査(WAIS−V)が
発達障害の診断、治療の必要性 社会適応能力判定には
一番有効であると考えている。
因みにIQとは知能指数といい、現代の社会生活、一般的なサラリーマン業務をこなす上で、必要な能力のみを数値化したもので、頭の良し悪しを計るものではない。この値が低いと社会生活(一般就労=サラリーマン))が困難であるということになり、療育手帳や障害者手帳を取得する指標になる。
付)ウィクスラー知能検査(WAISV)で解ること
全検査IQ=言語性IQと動作性IQの平均値
言語性IQ:言語を用いた能力 言語理解+作動記憶
動作性IQ:言語を用いない能力 知覚統合+処理速度
@言語理解:知識力 理解力 語彙力 義務教育で学ぶ知識
A知覚統合(知覚推理):視覚情報の整理 法則の理解 空間認知能力
B作動記憶(ワーキングメモリー)短期記憶と作業時に記憶を保持できているか
聴覚情報の記憶と処理 計算力
C処理速度:視覚情報の弁別 運筆の速さ スピード
D補助項目:(IQの値には関係しない)
理解 一般常識 社会的なルールの理解
配列 空気が読めるか 場面や状況の理解 前後の繋がり
組み合わせ 予測 推測が出来るか 全体像が把握できるか
E検査態度から 聴覚情報の理解と整理 不注意 衝動性など
発達障害の場合、IQ検査で総IQ値自体は正常値を示すことが多いが、中身の項目ごとのグラフが凸凹な場合は発達障害を疑うべきであり、凹の部分が、本人の社会生活に支障をきたしている可能性が高い。「ディスクレパンシー分析(差の頻度)」で、この項目でこれくらいの差が出る人は人口的にどれくらい居るのか数値として出せるのだ。
私は知能検査の結果とグラフ、ディスクレパンシーを患者本人に見せ、人口的には何%の確率で貴方は個性的(レアキャラ)なのか?得意、苦手項目から、具体的な工夫、アドバイスを積極的に行っている。
知能検査も診断に絶対的なものではなく、検査結果で異常が出ないからと言って発達障害を否定出来る訳ではない。ただIQの項目全てが高いのであれば、今の社会生活を送る能力があるということになり、よっぽど自己管理が出来ない、人間関係が築けない等が無ければ、療育手帳、障害者手帳の申請は不要である。
余談であるが、最近知能検査をしても詳しい検査結果を本人に文書で渡さない医療機関や心理士が多い。「悪い結果を見せると本人が傷つく」「間違った認識になる」などという理由らしいが、その考え方は発達障害者や知的障害者の偏見に通じるものではないだろうか?IQが低いということは、学習能力、就労能力が遅いというだけであって、人として劣っているのではない。さらに自分の能力、得意不得意を自覚することは、今後の社会生活では非常に大事なことである。(その為の知能検査である)
高額な検査費用を患者(患者の医療保険)から徴収し、検査に長時間割いたにも関わらず、その結果を本人に渡さない、教えないのは、詐欺行為に近いものであると私は考えている。(これは血液検査や画像検査なども同じである)もし検査をしても結果を貰えない場合は、是非患者側から請求してほしい。
5.発達障害の治療
発達障害に限ったことではないが、
精神科的な治療が必要かどうかは以下の項目の有無で決まる。
@社会生活を送れない(不登校、ニート、引きこもりなど)
A本人が困っている(生き辛い、生活、人間関係がうまく行かない)
B周りに迷惑をかけている(暴力、金銭援助など)
※全く当てはまらないのであれば、
どんな性格傾向であっても治療は不要である。
性格障害の治療の基本は自覚、工夫、リハビリである。
発達障害に限らず、BPD(境界型人格障害)や自己愛性人格障害、AC(アダルトチルドレン)など、性格に問題があるケースは、本人が自分で治そうという気持ちにならなければ決して良くならない。
特に発達障害の場合は知能検査の結果(特にディスクレパンシーのパーセンテージ)を本人に見せ、少数派であることと、病気では無く性格の問題であることを納得させないと治療は始まらない。逆にそのことを納得させられれば、治療の半分は終わっていると言っても過言ではない。
ここで大事なのは
発達障害は「障害」という名称はついているが、
決して劣っている訳ではないということ。
単に性格的な個性が強い、そういう人が少ない、少数派というだけで、決して稀な障害ではない。物凄い集中力や記憶力を持つ人も多く、総知能指数(IQ)は一般人の平均より高い人の方が多いのだ。一般人が苦手なことで、彼らに得意なことは沢山あること、真面目で素直であり人間的には非常に魅力があることを理解していただくことが大事である。
無理をして周囲の人と同じように作業をしようとしたり、周囲の価値観や常識ルールに合わせるのではなく、マイペースに自分独自のやり方をあみ出すこと、自分の性格傾向を周囲に伝え、良き理解者を作る、職場環境を整えてもらうことが一番の治療である。
私は患者には得意不得意のリストと、不得意なことに対する周囲の対応マニュアル、いわゆる
「自分の取り扱い説明書」を作り、
自分で上司や産業医に説明するように勧めている(いわゆる認知行動療法やコーチングに準ずる)
それが出来ない患者には積極的に家族や会社の上司を病院に呼ぶようにしている。
そこで患者の性格傾向を理解してもらい、知能検査の結果で、必要な方は障害者手帳を申請し雇用形態を障害者枠に変えてもらったり、休職のブランクが長くなっていれば、発達障害者用のリワークの利用を勧めている。
本人の性格を変えるよりも、その患者の周囲の環境を変える方がよほど容易いこと。「自分は変わっている、少数派である」ことを周囲に伝え、後は自分が生きていく社会環境の中で、失敗を繰り返しつつ自分でやり方を見出していくしかないのだ。
もし今現在引き籠っているのであれば、病気を完全に否定し、安静や薬物では治らないこと、人生を諦めて、引き籠っていても何も変わらないことを自覚していただくことが非常に大事である。(家族にも同様の自覚と覚悟が必要である)ひきこもりについての項参照
6.発達障害の厄介な症状と対処法
@ こだわりが強い (強迫観念 常同思考 常同行為)
「強迫観念」はある考えが打ち消せない、「常同思考」というのは何事も同じ思考で考えてしまう、という定義をされているが、患者の訴えのみで両者の区別は非常に難しく、要は小児期から「一つのことにこだわる、一つの考えが続く」というところである。
よく臨床で聞くのが、何事もこの順番でないと気がすまない。自分の持ち物や服装、置き場所にこだわるなどで、時に手洗いや戸締りなども認め、実際は強迫性障害と区別がつかないことが多い。この症状は、NRIやSNRIなどの内服で軽減することは出来ても、無くなることはないが、こだわる対象は、興味のあることに変化していくことはある。
(こだわりは治らないと、本人も周りも自覚することが大事)
因みに常同思考から来る行為を常同行為と呼ぶ、自閉症特有の症状であるが、外来で良く聞かれるのは、指いじり、爪剥ぎ、髪いじり、抜毛、貧乏ゆすり、独り言、一定の動作、指差し確認、物の配置、ルーチンな日常生活などである。これを行うことで精神的には落ち着き、無理に止めさせると精神的には不安定になるので、法に触れない行為であれば、どんどんやらせた方が良い。グルグル考える時間が多い場合は、忙しい毎日を送らせることで軽減できる。
A 過去の嫌な記憶が消せない (トラウマとフラッシュバック)
発達障害の人は、幼少時のほんの些細な小さな出来事でも、トラウマとして大きく捉え、時に記憶の改ざんをしていることも少なくない。(被害妄想と似ている)さらに記憶に対しての時系列が狂っており、
数年〜数十年前の出来事も、昨日の事のように鮮明に回想できるのだ。
自閉症の特性として、凄い能力であるが、生きていく上では非常に厄介であり、起因させる出来事に遭遇すると、容易にタイムスリップ、フラッシュバック 解離症状となり、さらに思考の多動もあわさり、引き籠るようになるのだ。
トラウマの根本的な治療は、過去の嫌な記憶を思い出させ、再体験から感情を吐き出す、トラウマと向き合うこと 遷延暴露療法 認知行動療法、EMDRなどがあるが、きちんと環境調整が出来ていない状態で行うと、精神的に不安定になり、引き籠り、暴力行為を助長させてしまう。親と離れること、家以外の居場所、安心する場所がある、相談できる人がいる、そのような環境になってから向き合うべきである。
それが出来ない環境下(引き籠り状態など)では、現実逃避が基本である。過去と直接向き合わずに軽減させるには、簡易トラウマ処理、思考場療法、箱庭療法、マインドフルネス、整体、ヨガ、坐禅 鍼灸、リラクゼーション、宗教活動などで、心を無にする、現実逃避、思考をニュートラルに出来ると良い。思考の多動が激しい場合は、忙しい毎日を送ることが一番、頓用で抗不安薬や少量の抗精神病薬で対応する。
ごく稀に過去の嫌な記憶を全く覚えていない、消去出来るという発達障害の患者に出会うこともある。私は勝手に「栗原類君タイプ」と呼んでいるのだが、記憶が残らない分、私生活での忘れ物や自己管理困難で苦労することにはなるのであるが、同時に失敗体験の蓄積も無いため、卑屈になることがない。トラウマを経験しても、ほとんど残らず、それゆえフラッシュバックや怒りの感情もないので、人間関係のトラブルも少なく、比較的社会適応も悪くない人が多い。
B 知覚過敏 感覚過敏
外来で一番多く聞かれるのは聴覚過敏であるが、視覚、嗅覚、味覚、触覚も過敏になっていることが多い。基本的には治らない症状であり、耳栓、イヤーマフ、サングラス、遮蔽、マスクなどの生活の工夫が必要である。
触覚過敏の中でも、痛覚過敏は重篤である。メンタル受診の前に身体科を受診し、診断を複雑にしているケースが数多く存在し、鎮痛剤が効果なく、難治性の片頭痛、線維筋痛症、咽頭部違和感症候群、過敏性腸炎などと診断されていることが多い。知覚過敏に対してはサインバルタ NRI(ストラテラ、コンサータなど)で多少軽減させることが可能。
共依存的な思考が強いケースは、過去のトラウマが「痛み」として転換ヒステリー症状を起こしているケースも多く、認知行動療法や遷延暴露療法で、劇的に痛みが消失することもある。
C 気温気圧での気分変動 電池切れ
外来で一番困る症状である。元々のノルアドレナリン系、ドーパミン系の活性低下が原因と考えられ、
気温や気圧が下がると、眠気、動けない、やる気が出ない、いわゆる「うつ状態」になる。
最悪な時期は梅雨前線や秋雨前線が活発になる時期、逆に春先や夏は調子が良い。
天候や気候で症状が変わることから、季節性うつ病や双極U型 起立性低血圧と診断されてしまっていることが多い。疲労にも関係があり、過集中や過活動の後に電池が切れたように動けなくなる。そして休養(十分な睡眠)を取ることで、又動けるようになる。(慢性疲労症候群に似ている)またPMS(月経前気分不快障害)と合併することも多い。
うつ病によるものではないので、抗うつ剤を飲んで安静にしていても治ることは無い。薬剤ではNRI、特に頓服でのコンサータが圧倒的に効果ある。眠くても、生活リズムをしっかり整えること、電池切れしない程度の少し激しい運動、日光に当たること、何かに興味(知的好奇心)を持つことなどでも、ドーパミンの活性を上昇させることが出来る。
私が一番効果を実感できるのは早朝の筋トレ、ジョギング、ウォーキングなどの運動であり、それが毎朝の日課になるとコンサータが必要なくなったという患者は多い。
D 衝動性 瞬間湯沸かし器
常同行為の中断や環境の急激な変化による、不適応パニック反応とは違うもの。その場合は不可抗力であるので、あまり厳しい対応は不要。
明らかに要因がある状況(例えば、自分の思い通りにならない時)で、スイッチが入ると人が変わったように易怒的、感情的になり、時に暴力、解離なども伴うが、数分から数時間で感情は収まり、翌日には何事も無かったようにケロッとしている。
インチュニブ、気分安定剤、少量の抗精神病薬で頻度を減らすことは可能であるが、全く無くなることはない。頓服の薬剤対応は飲もうと思った時には、既に衝動的に動いてしまっているので、実際は間に合わないことが、ほとんどである。
実際、衝動性を無くす(=切れないようにする)のは不可能である為、
切れた後にいかに短時間で、謝罪が出来るかをトレーニングすること
ルールと罰則設定も有効である。実際に人に怪我を負わせるような触法行為に対しては、躊躇せず警察を呼ぶこと、警察官からの厳しい叱咤や短期間の留置も抑止力になる。
余談であるが、近年、昨日まで全く精神的に問題なかった人がいきなり自殺をするというケースが芸能人、メディアなどでも多く報道されている。彼らは決してうつ病ではない。潜在性にADHDやACの傾向があり、過去のフラッシュバク、トラウマから、衝動的に行動してしまうのではないかと私は推測している。自殺=うつ病というのは古い考え方であり、最近の自殺の原因は圧倒的に発達障害やACなどの性格障害である。。
E 学習障害
学習能力:文字の読み書き、聴覚情報の理解 読解力 文章力 計算力 空間認知能力 推測する力 表現する 模倣する 人の顔を覚えるなどの中で、一つ以上の項目が不可能、もしくは物凄く苦手。
私の経験だと発達障害と診断した患者の6割以上が、何らかの学習障害を合併している。幼少時に周りが気づき、ある程度トレーニングすれば、改善することもあるが、成人してしまうと基本は治らないものである。
いくら努力しても治らない、出来ないと自覚し、生活や仕事の仕方を工夫していくことが治療になる。聴覚情報を視覚情報に変換する、電卓 録音、写メ、文字変換、音声変換、スマートフォンの機能をフル活用することが有効である。
F やりたいことが見つからない 何のために生きているのか解らない
(自己肯定感の欠如 主体性がない)
これも非常に厄介な症状である。先にも述べたが、発達障害の人は、学力のばらつき、協調性がない、自己管理が出来ないなどで、時に周りから苛められたり、親や先生から叱咤され、心の中に失敗体験が鬼のように積み重ねられている。自分は出来ない、ダメな人間、生きている意味がない、という思考から、自己肯定感や自己満足を得れず、 無気力、抜け殻のようになっていたり、世の中に対する怒りから自暴自棄、犯罪に繋がることも多い。
自己肯定感を上げるには、過去の自分や、今の自分の中で成功体験に気が付くしかない。元々、生まれつき、脳の構造が違うのに、定型発達の子供たちの中に入れられ、勉強や運動が出来ない、友人が出来ない 忘れものや、遅刻で恥ずかしい思いをしても、引き籠らずに、朝起きて学校に行っていたというのは、それだけで凄いことではないだろうか?自己管理が出来ない、人間関係が苦手であっても、仕事に就いていたというのは、称賛に値すると私は思う。
「出来て当たり前」というのは定型発達の人にのみ言える言葉であり、
生まれつきの脳に器質的な異常のある発達障害の人に当てはめてはいけない。
例えば、朝起きる、洗面をする、着替える、通勤通学出来る、挨拶が出来る、感謝や謝罪の言葉が言える、定時に寝る などの当たり前の事でも、出来れば素晴らしいのである。過去や自分の中にある成功体験に気がつけば、自己肯定感に繋がるのだ。
最近、「何にも興味がない」「生き甲斐がない」という青少年の発達障害者が非常に多い。確かにこの世の中を生きていくのには、興味のあること、生き甲斐、楽しみがあったほうが、充実した人生を送ることが出来るであろう。例え、それがゲームやアニメ、動画など一般的にオタク的な事であっても、共通の価値観を持っている人に出会えたら、一気に人生が変わるのではないだろうか?そういう意味でも 社会に出る前に何かしら興味を持ってほしい。
そういう趣味もない、興味がない、やりたいこと、ハマることが全く見つからない人には、
私は、「とりあえず、自立をしてみては?」と勧めている。
実家を出て、自分の稼いだお金で、家賃、食費、光熱費が払えるようになれば、自分に自信がつき、自分の力で生きている実感が持てるであろう。そして社会生活の中で多くの人と出会い、成功、挫折や失敗など色々な経験をして、ゆっくり時間をかけて自分と向き合えば、何がしたいのか?、どう生きたいのか?の答えが、死ぬ前までに見つかるはずである。
7.発達障害の薬物療法
20年以上色々な発達障害の患者を診てきた私が、一番治療効果を実感しているのは
誰が何と言おうと、絶対に「運動」である。性格の問題は薬で治ることはないが、
薬物の投与によって、多少症状を軽くすることは可能である。
以下に私が勧める薬物を挙げておく。
@ADHD治療薬
中枢神経系に作用し、不注意、多動、眠気、衝動性などいわゆるADHDの症状、具体的には、
・集中力が上がりミス忘れが減る、
・日中の眠気が減る、
・イライラが減る、という効果が期待できる。
因みに空気が読めるようになったり、同時進行や臨機応変に対応できるようになる訳ではない。
(アスペルガーや学習障害の症状には効かない)
チック症状や幻覚妄想状態、てんかん、緑内障、心疾患のある患者は服用注意である。
ストラテラ(アトモキセチン):NRI(ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
長期的に服用することで徐々に効果が発現する(脳内の濃度が定常状態になるまでは8週間)、依存性は少ない、薬理学的には抗うつ剤に似ている。時に嘔気 眠気 易怒性や興奮などの副作用を起こすことがあるので、私は2か月は増やさずに経過を見ることにしている。
添付文書で成人は40mgから開始することになっているが、私の経験では、動悸、頭痛、嘔気、高血圧、眠気などを訴える方も少なくないので、成人でも最初は10mg〜25mgから開始しており、増量せずその量でも充分効果を実感している。液剤もあるので、乳幼児も服用可能である。
中には、飲んだ日にすぐ効果が出たという人も居るのだが、そういう人は大体4〜8週間で効かなくなり、80r以上で効果が持続するようになる。また、飲む日と、飲まない日は、全然違うと訴える患者も稀に見受けられる。内服することで、頭が静かになったと訴える患者さんが多いが、逆に集中し過ぎる、仕事での閃きが減ったという方も多い。
コンサータ(=リタリン):NRI(ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
薬理学的にはストラテラと似ているが、即効性があり、日中の眠気に非常に効果がある。飲んで人生が変わったと訴える人も少なくない。いわゆる覚せい剤と成分が似ている為、耐性依存形成も非常に早く、飲めば飲むほど効果は減弱していく。
リタリンは2007年の東京クリニック事件と京成江戸川クリニック事件から規制が入り、現在処方するには、医師の届け出と患者の登録が必要になった。私は飲むなら頓服に留め、絶対に連日長期間服用しない、週に2日は抜くように勧めている。
アトモキセチンと併用すると依存形成も少なく、効果も増強する。副作用としては不眠、頭痛、動悸、食欲消失などを認める。また、12時間しか効かないので、切れた時(離脱時)の眠気や倦怠感に苦しむ患者も多い。ごく稀に服用直後に眠気を訴えることもある。
保険では72rまで増量可能であるが、私の外来では、最大量を飲んでいる人は稀であり、最小の18mgで、とどまっている人がほとんどである。(頓服服用であれば、その量でも十分に効果が得れる。)量が増えれば増える程効くが、作用時間が短縮していき、離脱症状はきつくなる。
最近ビバンセというコンサータよりもアンフェタミン(覚せい剤)に近い成分の薬が発売された。薬効がコンサータよりも強く、その分副作用 依存離脱も大きいと予想される。私には使用経験がない。
インチュニブ:(α2受容体作動薬)
中枢の交感神経系を抑制することで、多動や衝動性に効果がある。ストラテラよりも効果発現は早く、1〜2週間くらいで効いてくる。同じ作用機序の薬では降圧剤のカタプレス(クロニジン)やアルドメットがある。 鎮静効果はNRIよりも強く、私の経験ではNRIと比べ、衝動性や易怒性が激減することを度々経験している。副作用は眠気と低血圧であるので、就寝前に飲むと良い。
添付文章上では成人は2mgからとされているが、何故か2mg錠がなく、1rで400円、3mgで500円と薬価が非常に高い。私の外来では2mg以上飲んでいる人は少なく、1mgでも充分効果が得れる、又NRIやSNRIと併用すると効果が増強する。
ASNRI(サインバルタ)
SNRIはセロトニン系とノルアドレナリン系を活性化する働きがあり効果発現までは2か月くらいかかる。不注意、多動、衝動性というADHDの症状や、自閉症の強迫観念や知覚過敏など、身体症状(自律神経症状、過敏性腸炎)が目立つケースにも効果がある。
うつ病以外にも糖尿病の神経障害や、線維筋痛症、腰痛、変形性関節症の疼痛にも保険適応があり、私の経験では、鎮痛剤が効かない痛み全般に効果がある印象である。
特にサインバルタは効果は弱いもストラテラ(NRI)に近い薬理作用があり、さらにSSRIの効果も併せ持っているため、強迫観念、知覚過敏、衝動性にも効果が期待できる。私はADHDよりASPの要素が強い患者には、積極的に投与している。
副作用は、嘔気と眠気が圧倒的に多く、稀にイライラや、衝動性が悪化することもある。ストラテラやリフレックス(NaSSA)の併用で効果は増強する。(ちなみにサインバルタが、他の抗うつ剤よりもうつ病の寛解率が高いこと、全般性不安障害に効果があることなども、潜在性の発達障害の患者に効果があるせいと私は考えている)
SNRIが吐き気などの副作用で使いにくい場合は、ノルアドレナリン系の抗うつ剤、トリプタノール、トフラニール、テトラミドなども同様の効果がある。
BSSRI(ルボックス、パキシル、ジェイゾフト、レクサプロ、トリンテリックス)
SSRIはセロトニンのみを選択的に活性化させる抗うつ剤である。発達障害の場合、抑うつに対しての効果は期待できないが、不安感、衝動性や強迫観念に対して多少効果がある。しかしながら強迫観念に対して効果があるのは高用量であり、パキシルなら40mg以上、ルボックス、デプロメールなら200mg以上は必要。
その他のSSRIは日本の保険内投与量だと、今一つ効果不十分な印象である。(NaSSAや抗精神病薬との併用が良い。)副作用で嘔気という訴えが多く、パキシルには若年者で急性錯乱状態(activation syndrome)の報告もある為、発達障害の患者さんにはSNRI、NRIと比べて今一つ使いにくい印象である。
C抗精神病薬(リスパダール、エビリファイ、セロクエル、ジプレキサ、ルーラン、ラツーダ など)
反応性の幻覚、妄想、興奮、暴力などを認める場合は積極的に処方する薬剤であり、暴力暴言、軽躁状態、チック症状にも効果がある。また極少量であれば上記の薬同様にドーパミン系を賦活する作用も期待できる。思考の多動と感覚過敏に対しては、ドーパミンパーシャルアゴニストである、少量のエビリファイ、レキサルティが劇的に効く。瞬間湯沸かし器症状に抗不安薬が効かない場合、リスパダールのすい液が即効性があるので有効である。
発達障害の患者は元々ドーパミンが少なく、受容体も過敏になっているため、ドーパミンの活性を下げる抗精神病薬を服用すると、手の震え、固縮、パーキンソンニズム、アカシジア、過鎮静などの副作用が格段に出現しやすい。その為、統合失調症に使用する量の、1/4〜1/8の量から徐々に調節することが望ましい。強迫観念に対しても、抗うつ剤で効果が得られない場合、併用すると効果があることがある。
発達障害の患者さんが反応性の幻覚、妄想などから統合失調症と誤診されているケースに日常では非常に多く遭遇する。そのような患者さんが抗精神病薬を処方されると、アカシジア、過鎮静などの副作用が顕著に表れ、不注意、多動などの発達障害の症状が悪化する。
さらに抗精神病薬を減量すると幻覚妄想が一時的に再燃し、その後の薬物の調整が非常に困難になることが多い。(薬を減らすと統合失調症が悪化したと判断され減量が出来ないケースと誤診されるのである)因みに誤診と薬害による症状悪化を発達障害の3次障害と呼ぶ。
D気分安定剤(ラミクタール、リーマス、デパケン、テグレトール)
基本的には躁うつ病の治療薬であるが、性格の問題であっても、気分の変動、イライラ、暴言、落ち込みに関して効果がある。即効性がない分、依存性少ないのが魅力。(但し躁うつ病のように寛解はしない)
デパケンは精神科薬の中で、最も副作用が少ない薬剤で、てんかんや片頭痛にも保険適応があり、私が一番処方する薬剤である。ラミクタールは、BPDや知的障害、発達障害などの性格障害の気分変動に非常に良く効くが、皮膚症状の副作用が出やすいため注意が必要である。(デパケンとの相乗効果あり)。リーマスは過剰投与で致命的な腎障害がある為、大量服薬の危険がある性格障害にはあまり推奨出来ない。
Eベンゾジアゼピン系薬剤(:デパス、リーゼ、レキソタンなどの抗不安薬、各種睡眠薬)
その場の不安や緊張、不眠、自律神経症状に関しては、どんな疾患でも、とにかく有効である。性格障害の反応性抑うつ症状や無気力に対しては、即効性があり、非常によく効く。しかし効果は頭打ちであり、長期に内服すれば依存の問題から、その効果も減弱していく。
脳内のGABA受容体に作用し、主な薬効は4つ、@抗不安、鎮静効果 A睡眠効果 B抗けいれん効果 C筋弛緩効果であり、その強弱によって、抗不安薬、睡眠薬、抗てんかん薬などにカテゴライズされている。依存以外の副作用としては、眠気、脱力、健忘(服用後、一定期間の記憶が飛ぶ)、異常行動、脱抑制(異常なハイテンション)、呼吸抑制などで、重症筋無力症や急性閉塞隅角緑内障に禁忌、慢性呼吸不全、睡眠時無呼吸症候群、歩行不安定な高齢者は注意が必要である。
因みにアルコールにも同じ作用があるが、身体依存や肝機能のことを考えれば、圧倒的に薬物の方が安全である。相乗効果もある為、飲酒とは2時間以上空けて服用した方が良い。
最近、依存傾向を懸念して、抗不安剤と睡眠薬はそれぞれ2種まで、両方合わせて3種までという規制がかかった。私が処方する時には、どのような疾患であっても常に自己調節での頓服用を勧めている。
F漢方薬
何種類かの生薬を調合して、病気に効くのではなく体質を改善させる目的で作られた東洋医学の薬剤。それゆえ服用する人の体質に左右され、西洋薬が副作用で服用出来ない、効果ない患者に奏効することもある。効いてくるまで2〜3か月と時間がかかるが、依存性が無く、副作用が少ないのが、非常に使いやすい。
発達障害には以下の薬剤が効果あると言われている。
抑肝散 抑肝散加陳皮半夏 補中益気湯、四物湯、十全大補湯、
人参養栄湯 桂枝加芍薬湯、桂枝加竜骨牡蛎湯 甘麦大藁湯
G薬の中止について
その人にどの薬、どの組み合わせが、効果があるのかは、服用してみないと解らないので、副作用と薬効を見ながら一つずつ試していくしかない。薬をいつ止めたら良いのか?ということを、外来でも良く聞かれるのであるが、
私は飲むことできちんとした社会生活が送れるのであれば、
定年までは飲むように勧めている。(依存についての説明は必要)
逆に言えば、生活に変化がある、職場の環境が不安定、育児が大変、ストレッサーと同居している間は、積極的に飲んだ方が良い。
治療の目的は将来的に服薬を無くすことではなく、
限られた人生の中で、いかに長く有意義な時間を過ごせるかである。
(人生において一番大事なのは「楽しい時間」である)
因みに小児期から服用を開始すると、成人期までには服用不要になるケースが非常に的に多い。
Hその他の治療法 民間療法
薬物療法やカウンセリング(認知行動療法、コーチング、トラウマ処理等)生活指導以外の治療法として、栄養療法や磁気療法など各種民間療法がある。基本的に医療保険で認められていない治療は、今の所医学的な根拠が無いのであるが、発達障害の患者さんは、素直で疑わない性格から、被暗示性が更新しているので、プラセボ効果(暗示効果)は期待できる。
もし、自分で調べて、効果があるかもしれないと思えるものがあれば、是非試してみて欲しい。逆に騙されやすい発達障害者をターゲットにした悪徳療法も沢山あるので、高額前払い制のキャンセルがきかない治療法は止めた方が良い。
8.他の疾患との相違と合併について
発達障害は元々脳の構造の異常による性格の問題である為、他の精神疾患を併用することも多い。
精神科で診断をつける場合は多軸診断というのが推奨されており、この場合以下にあげるような精神疾患が1軸であり、発達障害、知的障害などの性格傾向は2軸、身体疾患が3軸、環境因が4軸、機能の評価が5軸である。その中で患者の予後を決めるのは2軸(性格傾向)と言われており、どんな精神疾患に関わらず、発達障害の合併の有無を調べるのは非常に大事なことなのである。
@統合失調症
幻覚、妄想、思路障害(考えがまとまらない)、自閉などを主とする内因性の精神疾患の代表、発達障害との合併は非常に多い。統合失調症は基本的に思春期以降に発症する精神疾患で、性格障害とは根本的に違うものであるが、私の個人的な見解だと、以下の様なケースで高率に発達障害が合併、もしくは誤診されている印象である。
・若年発症 いわゆる破瓜型と呼ばれているもの
・分裂感情障害(=非定型精神病):幻覚妄想と躁うつ病の症状が混在
・薬物抵抗性(大量に投与しても全く効果が出ない)
・少量の抗精神病薬でもアカシジア、震戦、固縮などの副作用を著明に認める、
・きちんと服薬をしていてもストレスがかかると症状がすぐに再燃する
・内服しなくても経時的に症状が寛解する、
(急性一過性精神障害と診断されてしまう事が多い)
発達障害は元々幼少時から疎通不良や自閉傾向を認めているため、それを統合失調症による残遺状態と診断してしまう医師も多い。
抗精神病薬をきちんと内服をしているにも関わらず、容易にストレス反応性に再発するので、最終的には大量の薬を処方され社会生活が送れず、自閉的な生活を送るケースが多い。
通常の統合失調症(発達障害を合併していない)のケースと比べると格段に予後が悪いので、幻覚妄想があるからと安易に統合失調症と診断するではなく、ベースに発達の問題があるかどうか、きちんと親の話や成育歴を聞き、その上で診断をつけるべきである。
発達障害の患者さんに、抗精神病薬を投与するとアカシジアや過鎮静から症状は悪化し、さらに副作用も出やすいのであるが、無理矢理長期に内服することで、脳内のドーパミンのレセプターの数が増加し、副作用は軽減していくが、この状態で薬物を急に減らすと、一時的にドーパミンの活性が上がり、幻覚妄想がすぐに再燃してしまい、後で発達障害と正しい診断をしても中々薬の減量が出来なくなるのだ。(発達障害の3次障害)
A躁うつ病
統合失調症と並ぶ内因性精神疾患の代表、数週間〜数か月周期でうつ状態と躁状態を繰り返す。現在再発を完全に抑える薬は存在しないが、内服薬で徐々に振幅を小さくし病期を短縮していくのは可能である。
発達障害に関わらず、知的障害、境界型人格障害やACなどの性格障害は1日〜1か月くらいの周期で抑うつ感や軽躁状態を繰り返すことが多く、躁うつ病(双極性感情障害、気分循環性障害など)と誤診されているケースも少なくない。以下の点が躁うつ病との違いである。
・症状がストレスや環境、気温と気圧 季節 生理周期などで変動する。
・重篤な躁状態(警察沙汰 保護室に入院になることが多い)を認めない
・短期間(数時間〜数日)で症状が変動する
・躁でもうつでもない期間=寛解期が1か月以上存在しない(躁うつ病には必ず寛解期がある)
・内服薬だけで改善しない。
重篤な躁状態を認めない躁うつ病を
「双極U型障害」と呼んでいるが、
そう診断されている患者のほとんどが、
発達障害などの性格の問題であると私は考えている。
性格から来る気分の波は、自分で周期を把握し、調子が悪い時に頓服の薬剤(コンサータ、抗不安薬、少量の抗精神病薬など)を調節できるようになれれば理想である。
B強迫性障害(患者さんからの?「強迫観念とは?」参照)
発達障害の多くに強迫観念、確認行為を認め、症状だけで考えると強迫性障害と区別がつかないことが多い。両者の違いは症状の出現時期で、発達障害は幼少時、物心ついた頃から症状を認めているのに対し、思春期以降にストレスがきっかけで発症するのが強迫性障害という精神疾患である。
うつ病、パニック障害や社会不安障害と同じような、後天的な脳内の神経伝達物質の異常と言われており、発症に性格やストレスは関係なく、治療の基本は薬物療法、特にSSRIの反応が非常に良い(発達障害でもSSRIは多少効果がある)
私の経験では、性格障害の患者にSSRIの抗うつ効果はあまり期待できないが、こだわりや衝動性を少なくするという効果があるため、気分安定剤と同様に発達障害の患者には処方している。(ちなみに性格障害の抑うつ症状に一番効くのは抗不安薬である。)
Cうつ状態(詳細は「本当にうつ病?うつ病と適応障害の違い」参照)
環境の変化から抑うつ感や無気力、情緒障害を訴える発達障害の患者さんは非常に多い。うつ病と違い、薬物の反応が悪いことと、2〜3日で抑うつ症状が変動する、自分の興味のあることは問題なく行動できる、などが特徴である。
発達障害の場合は、気圧気温の低い日に会社に行けないとか、上司や同僚の何気ない一言で行けない、昔の嫌なことを思い出して行けない、風邪などの病欠の後に行けなくなるパターンが多い。休職をさせても復帰の時に容易に悪化するので、きちんと自分の性格だと理解し、積極的な職場の移動や、最終的にはリワーク(職業訓練)の利用が必要になるケースが多い。
因みに慢性的に無気力、倦怠感、抑うつ感が続く「気分変調症」や軽い躁状態とうつ状態を繰り返す「気分循環性障害」という気分障害も、抗うつ剤が効かず、性格的な要因が大きいと言われ、ベースに発達障害がある可能性が高い。
D反応性精神障害 外傷性精神障害
何らかの性格的な要素がある人がストレス反応性に色々な精神症状を認めるものを反応性精神障害と呼び、以下のように分類されている。(発達障害の場合はどれも二次障害と呼んでいる。)
うつ状態 不安 緊張 情緒障害→「適応障害」
記憶障害 健忘 自我同一性の障害 多重人格→「解離性障害」
自律神経症状(全身倦怠感、動悸、息切れなど)→「身体表現性障害」
神経内科的症状(麻痺 失明 失声など)→「転換ヒステリー」
過覚醒 フラッシュバック→「ASD(急性ストレス反応)」「PTSD(外傷後ストレス障害)」
発達障害の人は、聞き流しが出来ない、言われたことを真に受ける、見て見ぬ振りが出来ない、嫌な記憶が消せない、思考の多動、知覚過敏、主体性の無さから共依的思考(アダルトチルドレンの合併)になりやすく、ストレス耐性が非常に低い(要は打たれ弱い)それゆえ上にあげた反応性精神障害の合併は非常に多い。
症状だけに着目して、安静や薬物療法だけを行っても改善することはない。
要は性格と環境から来るものであるので、治療は同じ、考え方を変えることと環境調整、徐々にストレスをかけていく脱感作 リハビリである。
E依存症(物質関連障害)
比較的社会適応が良い発達障害はACを合併していることが非常に多い。(逆にACを合併しないと就学や就労で必ず不適応を起こしているはずである)その共依存的な思考から、アルコール依存症や薬物依存症となることも多く、この場合はアルコール多飲や薬物摂取に対して罪悪感はあまり存在せず、指導や教育も出来ない為、通常の依存症よりも格段に予後が悪い。
私の経験だと30歳台でアルコール性肝硬変となるくらい飲酒したり、刑務所に何度も出入りしている薬物依存症患者など、全く是正不能なケースに高率に発達障害がある印象である。ちなみに発達障害にACが合併している場合でも、グリーフワークやカウンセリングは有効であり、時に話をしただけで、突然生まれ変わったように改善することもある。
またADHDは元々脳内のドーパミンが少ないことから、自ら脳に刺激を求める行動を取ることが多い。その思考と行動からギャンブル依存やアルコール、薬物依存になることも多く、私の経験で圧倒的に多いのがパチンコ依存である。
金銭管理が出来ないことも助長し、生活が破綻するまでやり続けるが、本人はあまり自覚しておらず、家族のみが相談に来るケースが多い。依存行動の原因がADHDにあるケースに対しては、ストラテラ(NRI)やサインバルタ(SNRI)を服用することによって依存症を軽減させることは可能である。
付)その他の疾患
私の経験で以下に挙げた疾患は性格ベースに発達障害がある可能性が高い、
基本的に内科的な治療は効かず、抗不安剤、SNRI 抗ADHD薬、抗てんかん薬
カウンセリング 生活習慣改善、運動療法などが奏効することが多い。
神経性食思不振症(拒食症) 特発性過眠症
慢性疼痛 疼痛性障害 体感幻覚症(セネストパチー)
慢性疲労症候群 繊維筋痛症 難治性片頭痛 自家中毒 慢性頭痛
原因不明のめまい症 頻尿症 過換気症候群
咽頭口腔内違和感症候群 過敏性腸炎 起立性調節障害
9.見逃された発達障害者の予後
路上生活者の70%に軽度の知的障害や発達障害を
認めたというデータがある。
実際私のところにも、市に保護された路上生活者が受診し発達障害が発覚するケースが非常に多い。現代の福祉大国日本で、普通に両親が居て、戸籍や住民票があれば、自己破産や生活保護などのシステムもある訳だから、よほどのことがない限り路上生活にはならないはずである。何故このようなケースが多いのだろうか?
路上生活者になった発達障害の多くは義務教育中の不登校から始まり、中には成人になるまで家の中で引きこもり、社会性を学べばない環境で育つことが多い。家がある程度の資産家であれば、両親の生きている間は生活していけるのだが、両親が亡くなったり、入院、失踪したりすると無理やりに社会適応しなければならなくなるのだ。
未成年の場合は児童福祉施設などに預けられ、運が良ければそこで発達障害を見つけ、職業訓練所などに繋げることが出来るのだが、成人(特に男性)の場合はそうはいかない。
今まで経験したことのない社会に放り出され、コミュニケーション能力や学歴も経験も無い為、まずは皿洗いや清掃員、接客業などの簡単なアルバイトに就くことが多いが、先にも書いた彼らの性格特性を生かした仕事に就けず、良き理解者がいない環境では、人間関係がうまくいかず、仕事でもミスばかり繰り返し、劣等感だけが大きくなるのだ。
それでも何とか周囲とうまくやろうと、必死に職を探し転々とするも年を重ねるごとに再就職が難しくなり、結局最後には職に就けなくなり、生活が破綻することが多い。
そういう中には福祉や社会の仕組みを知らずに簡単に人に騙されたり、身を滅ぼすギャンブルに嵌ったり、社会に対する怒りや感情の起伏から暴力団に入り犯罪に走ったり、自己管理が出来ずに路上生活を余儀なくされているケースが非常に多いのだ。
また先にも書いたが元々発達障害の患者は生真面目で素直で言われたことを真に受け、人間としては非常に魅力がある。一方周囲からは変わり者と見られており、場の雰囲気も読めず、人を疑わず、柔軟な考え方を持てず、後先考えない頑固者であるため、困った時にも助けを呼ぶことが出来ない。
この思考は成人になって年齢を重ねるごとに固執し、どんどん融通が利かなくなって行き、福祉を介入しようとしても、頑として本人が拒否をしてしまうのである。
可能であれば大人になる前、社会に出る前、不登校や引きこもりをしている幼少期、思春期の頃に医療や福祉が彼らの特性を見逃さず「発達障害」を見抜くことが非常に大事である。詳しくは子供の発達障害の項を参照
彼らに合った教育と社会適応の仕方を提供できれば、一般人と競う必要もなく、彼らなりの社会適応の仕方を見出し、場合によっては障害者手帳を取得し、職業訓練所の利用や障害者枠での就労も可能である。
また、今の世の中で社会問題と言われているもの、
その原因の加害者や被害者の多くは発達障害にあると私は考えている。
少しまとめると・・・
学校の問題 不登校 いじめ 引き籠り、 授業妨害
10代の自殺 モンスターペアレント
家庭の問題 虐待 貧困問題 5080問題 ネグレクト、家庭内暴力 DV
会社の問題 モラハラ パワハラ上司 休職転職を繰り返す人
失業率 就労能力のある生活保護受給者
依存の問題 アルコール依存 薬物依存 ギャンブル依存 ゲーム依存
犯罪の問題 少年犯罪 連続殺人 性犯罪 シリアルキラー サイコパス
ストーカー 交通事故 煽り運転 反省が出来ない人
私は仕事柄、高血圧 糖尿病など内科で診ている、ご老人達の悩みを聞くことも多いのだが、ご近所トラブル、嫁姑問題、遺産相続問題、離婚問題、介護拒否が激しい頑固な高齢者、活発な周辺症状を認める認知症など、誰でも一生に一度は遭遇するであろう、一般的な家庭の問題の中にも発達障害を疑う人物が数多く登場している。
それゆえ発達障害の患者さんと向きあうことは、社会問題と向き合うこと、世の中で引き籠りを減らす 苦しんでいる人 犯罪者や、犯罪被害者を減らすこと。長期間の休職者、精神障害者年金受給者 生活保護者が減る、雇用率を上げる 医療費や福祉費などの無駄な税金が減り、国民総生産(GDP)を上げる事になるのではないだろうか?
発達障害者と向き合うということは、将来の日本を救うこと!
と私は考えている
彼らをいわゆる「社会不適合者」や「犯罪者」にせずに、救うことが出来るのは我々医療、福祉関係者だけなのだ。(米国の刑務所に入っている囚人の75%が発達障害を持っているというデータもある)
その為には医療関係者だけでなく、一人でも多くの人に「発達障害」に対する正しい知識と理解が広まることを願って止まない。
注)受診の際には必ずお読み下さい↓クリック
発達障害関連で受診希望の患者様へ 付)発達障害お勧め本
「図解 よくわかる大人の発達障害」「図解よくわかる大人のアスペルガー症候群」ナツメ社
「大人のアスペルガー症候群」梅永雄二著 「大人のADHD」田中康雄著
「高校生の発達障害」「思春期のアスペルガー症候群」佐々木正美著
「よくわかる大人のADHD」「のび太ジャイアン症候群」司馬恵理子著
「わかっているのにできない脳」ダニエル・エイメン著
「知って良かったアダルトADHD」「依存症の真相」星野仁彦著
「片付けられない女たち」サリソルデン著
「自閉症的感覚ー隠れた能力を引き出す方法」テンプル・グランディン著
「自閉症だった私へ」ドナ・ウィリアムズ著
「ずっと普通になりたかった」グニラ・ガーランド著
学校では教えてくれないシリーズ
学校では教えてくれない大切なことを、学校で教えちゃいました! | 旺文社 (teacup.com)
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